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七夕 その8にしおりをはさみました!
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七夕 その8
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「……もう言ってみろよ…」
「えっ…?なに…?」
「秋月に言ってみればいいじゃねぇか」
「言えねぇから山梨に相談してるんだろ…?」
「じゃあ実際そう思った時お前はどうしてるんだ。なんも言わねぇのか」
「……いや…可愛いって言ってる…」
緒方が秋月に向ける可愛いという言葉にはたくさんの愛情が詰め込まれている。
例えば好きな気持ちが溢れてしまった時。
例えば嬉しくなった時。
とにかく緒方はありったけの気持ちを込めて可愛いと言う。
実際純粋に可愛いとも思うのだから間違えた言葉選びではない。
「なるほどな。でももう言ってみろよ」
「うぅぅぅん………言えねぇっ…!!」
「あいつ相手じゃどストレートに言わねぇと伝わんねぇだろ…」
秋月には独特の世界観がある。
思い込みが激しく思い立ったら最後。
マイペースにどこまでも突き進む。
一度その世界に入り込んでしまうと人の話は一切耳に届かない。
極たまに届いたかと思えば、 その世界と勝手にリンクさせた曲解はもはや見事。
会話は清々しい程噛み合わないのに噛み合うという訳の分からない事になる。
しかもいつ、どのタイミングでその世界に入り込んでしまうのかも分からない。
とにかく謎に満ち溢れている。
緒方でさえ未だにその世界観を掴みきれない。
だからこそその突飛な言動に振り回されるのだ。
そんな秋月を相手にして小難しく愛を囁いてみたところで伝わらない。
その裏に隠された意味に考えが及ぶ事なく言葉の通りに受け取ってしまう。
冗談も通じない。
それ故に緒方の与える真っ直ぐで分かりやすい好意は秋月からしたらとても心地がよい。
周りから見たら面倒くさい緒方の嫉妬や独占欲でさえも、秋月にとっては安心材料なのだ。
「うぅぅぅぅん…それはそうなんだけど…」
「一回言えればこっちのもんじゃね?」
山梨は口が上手い。
もちろん信頼に足る人物である事から、みんな山梨の話には素直に耳を傾ける。
そこを逆手に取って井上をあしらう、なんて事も可能だ。
山梨は先を見通す能力にも人の気持ちを察する能力にも長けている。
だからその気になれば、山梨の望む展開に話を持っていく事や、相手の言動をある程度操る事が出来る。(ただしマイワールドに突入した秋月を除いては)
もし山梨が緒方の立場だったのなら。
とりあえず一度秋月にエロいと言ってみる。
初めてそんな事を言われた秋月は、羞恥で顔を赤くするのだろう。
最近やっと活動を始めた表情筋をどう動かすのか。
あの形の美しい唇から一体どんな声を発するのか。
想像するだけで高揚感が募る。
例えば秋月の口癖である
「なに言ってるんですか」
で返してきたとしても、その無愛想を崩して感情むき出しになるまで容赦なく攻め立ててやればいい。
自分が望む反応を見る為に相手を言葉巧みに突き崩す。
それが恋人相手となればこんなにも楽しい事はない。
支配欲は存分に満たされる。
言い出せないからといつまでも言わないから状況が動かないのだ。
だったら一回言ってみればいい。
「うぅぅぅぅん…言えるかなぁ…」
「問題は言えるか言えねぇかじゃねぇ。言うんだ」
「山梨パイセンかっけぇっす…」
「俺とお前じゃタイプが違ぇんだよ」
山梨だって大切なものは大切にする。
でも緒方のように相手に全てを捧げるような事はしない。
いや、全てを捧げたくなるような恋をした事がない、というのが正解だろう。
眠れなくなる程焦がれて、涙が止まらない程誰かを慕う。
他のものに目もくれずその人の事だけを一途に愛する。
そんな緒方を山梨は少し羨ましくも思っている。
それ程までの相手に出会えたのだから。
でも今山梨が一番気になるのは
「お前が部活中にこういう話するの珍しいな」
緒方は秋月同様、高跳びに関しては常に本気だ。
部室で騒ぐ事はあっても、基本的に部活にプライベートを持ち込むような事はしない。
時折部活中であっても嫉妬をむき出しにしているが、こんなあからさまに秋月の相談をしてくるなんて初めての事。
「うん…ごめん…ほら、今日ってさ…七夕じゃん…?」
「そうだな」
「天気もいいじゃん…?」
「そうだな」
「天の川とか見れるかもしんねぇじゃん…?」
「そうだな」
「だからかな…」
「……いや意味が分からん…」
「え?そう?」
「そりゃそうだろ…」
七夕だから秋月にエロいと言いたい、という事なのだろうか。
全く意味が分からない。
「……とにかく頑張ってみようかな…」
「おぅ、頑張れ」
「うん!山梨ありがとう!」
緒方は嬉しそうに笑って秋月の元へと走って行った。
つづく
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