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翡翠と白鷺(青)-1
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◎翡翠と白鷺(青)
志朗と葵琉の出会いを葵琉視点で書いたものです。
春休みにフラッと出掛けた学校で古いお堂を見つけた葵琉は――。
――――――――――
その人を初めて見たのは俺が沢井流学園に入学する二日前の事だった。
春休みの何もしなくていい時間というのも初めのうちは天国だったけど何日も続くといい加減うんざりしてきた。
暇つぶしに家から学校まで何分で歩けるか計ってみようと思いついて新品の制服に腕を通した。
小学校から大学院まで揃っている沢井流学園は、高校から3コースに分かれる。
沢井流空手の修行に明け暮れる沢井流コースと、寺の息子とかが入る仏教コース、あと俺たち外部生が多く行く普通科。
制服のブレザーとかズボンは一緒だけどネクタイの色でコースの見分けが出来るようになっていて、沢井流コースは濃い紫、仏教コースはグレー、普通科は黒とグレーの千鳥格子だ。
下駄箱のところまで行って帰ってくるだけのためにネクタイを締めるのは面倒くさいけど、沢井流学園は風紀がめっちゃ厳しいって聞いていたから念のため付けていく事にする。
校則は厳しいけど、テストの成績が良ければネクタイもしなくていいし、茶髪もピアスも黙認されるって噂があるから春休みは勉強を頑張った。
男しかいない学校でオシャレしても意味ないけど周りが校則に縛られて自由にできない中で自分だけ好き放題出来るのは気分が良さそうだし。
学校までの道を家からひたすら真っ直ぐ来たら大きなお屋敷に突き当たった。
ものものしい表札には『沢井』と書かれているから、きっとここが沢井流宗家の家だ。
沢井流の息子が1学年上に居て風紀委員のボスをやっているんだけど、般若か修羅のように恐ろしいって中学でも話題になっていた。
沢井流3段の猛者でプロレスラーみたいなゴツいやつで顔は般若か修羅。
本当に人間なのかな。
制服姿でこんな所をうろついていて目でも付けられたら厄介だからこんな恐ろしいところは早く立ち去るに限る。
右に行くか左に行くか迷ったけど見た感じ左の方が次の曲がり角まで電柱1本分ぐらい近そうだから左にした。
角を曲がったところでお揃いの白い道着を纏った子供の集団がマラソンしているのにぶつかりそうになってヒヤッとした。
「こんにちわぁ」
「お疲れさまです」
駆け足の号令と同じ威勢のいい声で口々に挨拶されて、慌てて返事を返した頃には道着軍団は既に角を曲がって見えなくなっていた。
沢井流宗家のばかでかいお屋敷を通り過ぎるとすぐに目の前に現れた建物が沢井流学園だった。
いいな、宗家の人は遅刻とか絶対しないから。
石に彫られた表札には『沢井流学園通用門』と書かれていたから、たぶん沢井家を右に曲がっていたら正門だったんだ。
正門でも通用門でも中に入ってしまえば同じだから50センチほど開いた隙間から体を滑り込ませる。
「えーっと、校舎は…」
通用口を入ってすぐにある建物はどうやら体育館のようでボールの音や威勢のいい声が聞こえてくる。
右に行くか左に行くかまた迷って、今度はさっきと逆の右にしてみた。
思えばこの選択が俺の人生を360°まるっと変えてしまったんだ。
右に進んで角を曲がると、そこにあったのは校舎と似ても似つかないお堂のような建物だった。
今度は左だったんだ。
引き返そうと思って振り向いてから、どうせここまで来たんだからと思い直してそのお堂が何なのかを見ていく事にした。
近くに寄ってみると「武道場」と墨で書かれた古めかしい木の板が掛かっているのを見つけた。
お寺のような木の階段の手前にある石の上に靴が一足きちんと揃えて置かれていた。
真似して靴を脱いで横に並べると、ギシギシと音を立てる階段を登ってみた。
入り口の引き戸は少しだけ開いているが、通り抜けるには狭いので隙間から中を覗き込む。
「!!」
そこには1羽の白鷺がいた。
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