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18歳以上ですか?
<21>にしおりをはさみました!
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<21>
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先生の自宅でシュンを寝かせたあと、方々に電話をかける。
笹川さんには明日休みをもらうことを伝えた。友人の意識がまだもどらず、彼の両親が札幌から明日つくので、それまで自分がついている必要があると適当なことを言って。
意識はあるが眠っているし、病院ではないが医者の「所」には変わりない。
モリには「風邪をこじらせて自力で病院にいけず、懇意にしている先生に電話をした」と説明した。シュンの状態を知る人間は少なければ少ないほどいい。
落ち着いたら自分の部屋に連れて帰ると伝えるとモリは嬉しそうに『予備の布団が役にたつな』そう言った。
先生はコーヒー片手に「よくスラスラと。私にはできません」そういって苦笑していた。
さて、本番はこれから。気を引き締めた。
『ランブルフィッシュです』
「木崎ですが」
このあいだの驕りの礼を言いそうになったが飲み込んだ。礼など今日は言いたくない。
『……木崎さん?ですか』
「アメリカ帰りのユキです」
『ああああ。失礼しました。今度はなんですか?吉川なら来てませんよ』
「そのくそったれに連絡してくれ。明日シュンが住んでいたところで会いたい。時間は合わせる」
『随分とまた生意気な物言いですね』
「くそったれでもまだマシなくらいだ」
『そんな失礼な人に友人を逢せると?』
「あんたの友人が堅気さんに手をだしたといったら?」
『……何をしたのですか、吉川は』
「ギャラリーの前でSEXショーをやりやがった。シュンは、どこのどいつか知らない男達の精液まみれで発見されたぞ。結束バンドで縛り上げられて肩は脱臼してるし手首はひどい有様だ、シュンは病院に担ぎ込まれた。これだけ言えば十分だろ」
『……わかりました。折り返しますので番号を』
電話を切った俺を見て先生はマグカップを差出す。
「向こう見ずですね。波多家さんは脱臼しかけましたが……危ない人相手に嘘をつくなど。
心配しても無駄ですが、心配です」
「まあ、なんとかなりますよ」
「落ち着いたらシャワーをどうぞ」
汗だくだったことを思い出す。
「浴室は出て左側のドアです。タオルと着替えは置いてありますので、それで我慢してください。木崎さんには短いでしょうけれどね」
先生がいなかったらと考える。シュンが持ちこたえていられたのは、この先生のおかげだ。
シュンの様子を見に行くと、目を覚まして天井を見詰めていた。
今までの張りつめていたものがふと切れ、疲れを自覚する。そっと近づくとゆっくりと視線を合わせてくれた。
「ここはどこ?」
「先生の自宅だよ。俺の家は遠いから今晩はここでお世話になることにした」
シュンは俺に背を向けるように寝返りをうち、そのまま潜り込んだ。
「どうした?」
「色々思い出して。すっかり僕は汚れてしまったよ。だから……見ないで」
「嫌だ」
俺は借りたタオルケットを片手にベッドに横になった。
「やだ、見ないでって言っただろ。入ってこないで」
「わかってるよ、見ないし、入らない」
タオルケットをかぶり、布団の上からシュンを背中から抱きしめる。
「怖い思いをしたな。でも大丈夫、朝まで一緒だから」
シュンは急に勢いよく上半身を起こしたから、せっかくまわした俺の腕が外れる。
「ユキ!ここにいちゃダメだよ、逃げて」
起き上がってシュンの両手をそっと握ってやる。
「例のAVの話か?」
「先生が伝えてくれたんだね?こんなところで僕にかまっている場合じゃないんだよ!」
腫れた頬に触ると、顔をしかめる。
「痛かっただろ……これ」
シュンは頬に置かれた手を振り払った。
「痛いのはいいんだよ!こんなものは治る。でも取り返しのつかないことになったら、僕はどうしていいかわからない。先生に迷惑かけてでもユキにつたえなくちゃって!」
俺はそっとシュンを抱きしめた。
「じゃあ、俺を助けてくれる?守ってくれる?」
「え?」
「俺はシュンと自分を守るって決めた。明日吉川にあってケリをつけてくる」
シュンは俺の腕の中で暴れ始めるが、ぐっと力をこめて封じ込めた。
「もう逃げるのはナシだ。ヤクザだろうが何だろうが、後悔するのも逃げることにもウンザリだ。そう思わないか?」
「ユキ、何言ってるの?」
「吉川に向き合うには材料がいる。写真を使わせてもらう。教えてほしいことがあるんだ。言いにくいこともあるだろうけど、我慢してくれないか?」
暴れることをやめたシュンは、俺を見上げている。その表情は硬く不安そうだ。俺だって不安だ、でも後悔に蝕まれることのほうが怖ろしい。その恐ろしさを知っているからこそ、立ち向かっていける。
シュンの体から力が抜けたことに安心して俺は質問を始めた。
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