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桜咲き解れ結えば輩なり。(3)にしおりをはさみました!
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桜咲き解れ結えば輩なり。(3)
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パタリと閉じた扉を、ぼんやり見つめていた理人は、ふっと我に返ったように咳き込んだ。
「ケホッ…ケホケホ…。」
「お水をどうぞ。」
サッと給仕人に差しだされた水の入ったグラスを受け取り、咳の合間に慎重に流し込むと程なくして治まった。
「はぁ……。なぁ、アイツまた太ったか?」
「ぶっ!……理人、お前……まさかあの嫌味の最中に、んなこと考えてたのかよ?」
潤が笑いながら言うと、理人はキョトンとした顔で当たり前のように言った。
「え?そうだけど……。」
「さすがだな〜、あははははは!」
潤のツボが浅いのは皆知っていて、自然と彼の笑いにつられて笑顔になってしまう。
「あ、リョーちゃん大丈夫?」
一人、浮かない顔をしていた桜庭に鉄平が声をかけると、桜庭はビックと肩を揺らした。
「はい。大丈夫です……。」
「……な?アイツ、太ったよな?」
少々の沈黙を破り、理人がもう一度聖夜に同じ質問をする。
「理人……そんなに気になるの?」
「ああ。このーきなんのき、きになるき……って言うだろ?」
「ふふふっやめて。」
「リト歌うまーい!」
「もっと褒めろ。」
「うまーい!」
「よし。世は満足じゃ。」
表情の乏しい理人が何を考えているのか、桜庭以外には理解できた。
伊藤も何も言わず優しく微笑んで、見守る。
「涼介、人はみんな、知られたくないこと、見せたくないところを持ってる。俺たちは、そこを理解してつるんでる。」
理人のその言葉に桜庭は顔を上げ、驚いた顔をしていた。
「どんな教育をされて、今まで生きてきたかなんて、俺たちには分からない。お前の普通は俺たちの異常かもしれないし、その逆もある。」
理人の赤い唇から紡がれる言葉に、皆耳を傾ける。
ここにいるのは、彼に心を救われたものばかり。
温かく、否定せず、受け入れてくれる。
それがこの年でできるのは、きっと自分も同じような経験をしてきたからだろう。
そんな彼だからこそ、付いていきたくなる。
「でも、それは些細なことだ。信頼と絆を深めるために一々そんなこと、気にしていたら切りがない。十人十色というだろう?お前はお前、俺は俺、アイツはアイツ。人の過去なんて関係ない。今と未来が重要だ。」
「そう。つまりは、気にするなってことっすよ!」
「流生、よくわかったな。」
「え!分かりますよ!」
「あははは!君たち、仲よくするんだよー。」
伊藤がそういうと、理人はまたキョトンとする。
「喧嘩なんてしてないですよ?」
「うん。知ってるよ?」
「じゃあ、なんで……。」
「ふふふっ、さあ!団結おめでとう。これからみんなで仲良く、卒業目指して頑張りましょう!」
伊藤がぶどうジュースの入ったグラスを目の前に掲げると、皆もグラスを持った。
「カンパイ!」
窓の外はライトアップされた桜がはらはらと舞い、ほつれた桜庭の心の糸は理人によって結いなおされた。
そして今宵、鈴蘭の名を持つ新しい団は、堅い絆で結ばれた輩(ともがら)となる。
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