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― ep.1 ―(4)にしおりをはさみました!
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― ep.1 ―(4)
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…そこまで考えたところで、
さっきまで車内の吊り広告を見ていたはずの天ちゃんが、
いつの間にか俺の顔をじ～っと見ていることに気が付いた。
「……
…ん？」
「いや、なんか難しい顔してたから」
「えっ、そ…そうかな」
適当に誤魔化そうとして辺りをキョロキョロ見回すと、
今この車両には俺達以外に同じ学校の生徒は乗っていないことに気付いてしまった。
初日ほどではないにしても、割と早めの時間帯であるうえ、
学校の最寄りからは20分近くも離れた駅から乗り込んでいるので、
まだ暫くは誰にも会わないかもしれない。
今ここに居るのは何でも話せる幼馴染だけだ。
…俺は、あくまで自然に。決して深い意味はないんですよという顔で、
あえて窓の外を眺めたまま少しだけ小さく落とした声で話を振った。
「２年生でさ、有名な人って言ったら、誰が居る？」
俺の質問に、天ちゃんは「はぁ～？」と間の抜けた声を１つ出すと、
考えるように電車の天井に目をやった。
意外…。
あれだけ目立つ人だから、すぐに上がってくるかと思ったのに、
天ちゃんはたっぷり時間をかけて考え呆けていた。
「有名って、どういう風に有名？」
「えぇと…あ、たとえばだよ？
校則ギリギリの明るめの茶髪で、いつもみんなの輪の中心に居て、
笑顔が印象的な、いかにもムードメーカーって感じの人」
「…？
あぁ、アイツか」
やばっ！と思った。たとえ話をしていたはずだったのに、
特定の１人のことを言っているのがバレバレだった…。
なんだかすごく気まずい感じになってしまったけれど、
天ちゃんの方は別に何も気にしていないようなので、
余計な弁解はせずに黙って次の言葉を待った。
「サハラのことだよな、それ？」
「サハラ…？」
砂漠……？
「２年４組の“砂原 逸彦（さはら・いつひこ）”。
言われてみりゃちょっと目立ってるかもな。
友達だから『有名』って言われてもあんまりぴんとこなかったわ」
「……えぇっ！？ 天ちゃん友達なの？！」
「何そんなに驚いてんだ？
アイツ友達多いから、俺以外にもいくらでも居るぞ」
「そ…っか…」
２年４組の、砂原逸彦。
――砂原先輩、か。
名前を知ることができた。……それだけで、なぜだろう？
なぜだかとても……嬉しくなった。
「で、アイツがどうかしたのか？」
「えっ？ あ、あの…え～と…」
「？」
「………
…うん、あのね。
入学式の日の朝に、初めてあの人…砂原先輩を遠くから見て、
なんかすごい、華やかで、笑顔が綺麗な人だったから。
気になってたんだ。それで、もっと知りたいと思って」
もう誤魔化すのは無理だと悟り、やっとありのままを正直に伝えた。
このお兄ちゃんにはどうしても嘘がつけない。
…そうだな、俺は気になっているんだ。
そしてもっとよくあの人のことが知りたいんだ。
それ以上でも以下でもない。
これが本当に素直な自分の気持ちだった。
「…へぇ～、気になってた、か。まぁどういう意味でなのかはわからんが」
「……」
これは…変な意味に取られてる可能性は、半々ってところだな。
もう充分だと思い、別の話題に切り替えようとした時。
――まだ切り替えるつもりのなかった天ちゃんが、意外なことを言った。
「お前どうせ美術部入るんだろ？
だったらこれから嫌でも会うことになると思うぞ？」
「……え？」
意外というか、全く繋がりの見えない、意味のわからない言葉だった。
美術部には入るというか、ちょうど昨日が入部初日だったけど……
先輩も美術部なのか？ てっきり運動部のエースだとばかり思ってたぞ？
あの感じで美術部じゃ、それこそギャップすぎるだろ。
まあ、そういうのは見た目で判断するものじゃないか……って、
いやちょっと待った。やっぱり違うよ。
だって昨日顔合わせの時に部長サンが、
「部員は全部で５人だけなんだよ～」って言っていた。
３年生が２人、２年生が１人、そして新入生の俺達２人。
これで全員だから仲良くしようね～、って確かに言ってたんだ。
「嫌でも会うって、それどういうこと…？」
「すぐにわかるよ。あ、そうだお前、アイツの握手攻撃には気を付けろよ！
慣れない奴はアレちょっとビビるかもしれないからな」
「へ？ 握手攻撃？」
「アイツ、握手魔なんだよ。
下級生なんかは特に引くと思うぞ～。
まあ、キス魔よりはいいけどな。はっはっは」
「ええぇっ、ちょっと何その話…」
なんて言ってる時、
比較的賑わう駅に到着し、同じ学校の学生グループが乗り込んで来たので、
人の噂話は強制的に終了した。
「（ボディタッチが多い人なのかな…？
アメリカ思考の人なのかも…？）」
思いっきり気になるところで断ち切られたものだから、
別の話題を出されても全く耳に入ってこなくて、
結局俺だけが一日中モヤモヤするはめになってしまった。
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