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番外編63ひと夜咲く純白の花の願い
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マキが帰って行った日。
百目鬼はマキを送っていって謝るつもりだった。
しかし急な仕事、しかも昼には切り上がると思ったが、そうはならなかった。
梅さんの孫の居場所を掴み、あとはどう連れ帰るかだったが、孫本人がグループの足抜けを考えていたらしく、それがバレて仲間内で揉めたそうだ。
その制裁に、何処かに監禁された。俺に情報を流してくれてる奴によると、今のところちょっと殴られただけらしい。抵抗しなかったので大事には至らなかったらしいが、救出作戦を立てなきゃならなくなった。
そっちは、準備が整うまで、孫には大人しくしてもらわなきゃ困る。
昼頃矢田からかかって来た電話で、マキが用事が出来て帰ると言っていると聞かされ同行を断念した。
矢田に茶封筒を渡すように頼み、家に帰したら連絡するように言った。
1人で帰したら真っ直ぐ帰るとは思えない。
マキから家に帰り着いたと電話があった時。
マキの様子がおかしかった。
ヘラヘラした声、また何か誤魔化そうとしていると感じた。
酔って俺があいつに言った事を考えれば、あいつには、何を言われても仕方がない。だが、目を見ず声だけではマキの真意は計れない。あいつは修二以上に本音を隠すのがうまい。
前日の事に触れ、どう話そうか迷っていたら、マキはペラペラ喋り出す。
百目鬼「…ッ昨日は悪かった…、今朝も急用で出なきゃならなくて…まだ手が空かない」
本当は、ちゃんと謝らなきゃならないと思っていた。酔ってたとはいえ、あんな事言ってはいけなかった。
受け入れる気も無いのに。
マキ『ふふ♪昨日はとても優秀な生徒さんでしたよ♪』
生徒?
マキが皮肉を言ってると直ぐに分かった。
だが、マキに何を言われても、謝るしかない。
百目鬼「……なぁ、マキそのことだが…」
マキ『ああ…、茶封筒受け取ったよ♪あれ僕になんだよね?』
百目鬼「あ、ああ、少ないが世話になったからな…」
矢田の奴ちゃんと渡してくれたんだな。
でも、なんでその話しに跳ぶ?
マキ『ふふっ♪大丈夫、昨日の事は無かった事にするよ。貴方は誰も傷つけない。貴方が相手を強く想った愛情の強さだけ、相手を大切に出来るから』
百目鬼「は?おい、それは…」
マキ『大丈夫。この話しはお終い。忘れよう』
〝忘れよう〟そう言われてホッとするべきなのに。あいつが帰ればスッキリするはずなのに…
どうしても、気になって仕方ない…
それは、修二のようにヘラヘラ本音を隠すあいつの瞳が、修二に似てるからなのか?
マキと修二は似てるようで似ていない。別にダブらせてるわけじゃない。だが、マキといると修二との昔を思い出す。良いことも、悪いことも…。
マキも修二のように、本当の自分でいられない何かがあるのか…。
俺は学生の頃ずっと本当の自分を押し殺して生きていた…、それがどんなに辛いことか知っている…。
だからほっとけないのか?
あいつは何故隠す必要がある。
あんなに人を惹きつけるのに、人に好かれてるのに。ちゃらけてヘラヘラするのがたまにキズだが、人の気持ちも分かる優しい奴なのに…。
何を隠す必要がある?
時々瞳に現れる本音のような悲しい色。
ヘラヘラしながら泣きそうな瞳。
〝帰る〟という時のあいつの悲しそうな瞳が、どうしても放っておけない。
放っておかないからあいつに悲しい思いをさせる。
応える気もない癖に…
悪循環だ、最悪だ…
百目鬼「ッ…、分かった」
マキ『じゃあね♪』
電話じゃお前がどんな表情してるか分からない…。
百目鬼「 ………マキ」
マキ『あー、そうだ。今日これから修二に会うんだ♪貴方が話しがあるって言ってたって僕から上手く話してあげようか?』
ぐッ…
百目鬼「…余計なことすんな」
マキ「はーい♪ごめんごめん、じゃあ、僕行くから、バイバーイ♪」
修二の名前と、ヘラヘラするあいつにムカついて、通話をブチっと切った。
切った瞬間冷静になる。
あっ、…俺…また…やっちまった。
仕事がひと段落して事務所に帰り、マキに電話してみたが繋がらず。矢田にマキのことを聞いた。
矢田の話しでは、マキは、車の中で泣いたらしい。
声を押し殺して、マダラトビエイのぬいぐるみを抱きしめて…。
胸がズキリと痛む。
それなのに泣き顔を見たいと疼いて…
俺の目の前では決して弱さを見せないことにイラッとする…
俺は一体あいつにどうしてやればいいんだ?
それとも、もう何もしない方がいいのか?…
きっと、もう何かをしてはいけないだろう…
俺はあいつを受け入れることが出来ない。
あいつを傷つけるだけだ…
そのあとやたらと忙しかった。
琢磨が現れ、マキがいないと騒ぎ、お守りを檸檬に任せたがなかなか手を焼いていた。「鬼がマキを食べちゃったぁー」と泣く始末。これはマキに直接説明してもらわないと拉致があかなそうだ。
全部の仕事が終わって事務所を閉め、部屋に帰った。玄関にを開けて呟く
百目鬼「ただいまー」
言ってハッとした。
もう、マキは居ないのだから、ただいまなんて言っても誰も迎えない。
マキ『おかえりなさーい♪』
いつも嬉しそうにニコニコ出迎えてた奴が居なくなると、今まで気にしなかったことが気になるもんなんだとため息が漏れた。
簡単なごはんを作り、一人で食べる。
いつも煩くガッつく奴がいないから、静かなもんだ…
もう今日は、早く寝るかな?
シャワーを浴び、そうそうにパジャマに着替えてビールを片手に寝室に入って電気をつけた。
ああ、シーツが新しくなってる…
あいつがやってくれたのか…
…。
何故だ…。
居なくなったはずなのに…
前より存在を強く感じる…
どれだけあいつに生活を侵食されていたか、身にしみる…
今朝は悪いことをした…
あいつの様子がおかしかったのはやっぱり、気持ちに応えないのにあんなこと言ったからだろう。酔ってたとはいえ、あんな事言うべきじゃなかったんだ。
人肌が無いと眠れないと、いつも猫みたいにすり寄って来て湯たんぽみたいだったから、いないとベッドがヒンヤリする…
百目鬼「あいつ、自宅ではどうやって寝てるんだ?」
そんなことが気になって、気になる自分に呆れる。
百目鬼「ハァー…。……ん?」
ふと、ベッド脇の照明代の上の見慣れない物に目がとまった。
近づいてみると、
それは茶色い封筒。
裏側の茶封筒を手に取ってみると中身が入っていて、ひっくり返してみると、表側に〝マキ〟と百目鬼の字が書いてある。
そしてその脇に一言。
〝こんなもの要らない〟
と、書いてあった。
…やっぱり、受け取らなかったか…。
あいつのことだから、〝僕が勝手に手伝ったんだから〟というだろうと思った。だから矢田からではなく、俺が直接渡したかったんだが…
どうしたもんかと思って封筒を眺めていたら、ふと、隅っこがシワになっているのが目が止まった。
小さな丸い円が重なって二つ。
その円の中だけシワがわずかに寄っている。
ん?
…。
……。
矢田『マキさん…後部座席で声を押し殺して泣いてて…』
〝こんなもの要らない〟
『お金をしまって♪』
『昨日は優秀な生徒さんでしたよ』
『僕、体は売ってない』
〝こんなもの要らない〟
百目鬼(!!!!!!!!!!!!)
マキ『ああ…、茶封筒受け取ったよ♪あれ僕になんだよね?』
百目鬼『あ、ああ、少ないが世話になったからな…』
ッッッ!?
違う!!
その時初めて、百目鬼の中でマキの様子のおかしかったことと、封筒に丸いシワがあったこととが繋がって、ゾワッと悪寒がした。
百目鬼「嘘だろ…」
百目鬼は飛び起きてすぐに携帯を取り、マキに電話した。
しかし…
『おかけになった番号は、現在使われておりません…』
百目鬼「は?」
電子的な声に驚いて携帯の表示を確かめるが、間違えなくマキの番号にかけている。
すぐにもう一度かけたが、やはり同じようにアナウンスが流れる。
百目鬼はすぐにベッドから飛び出し、着替えながら矢田に電話した。
百目鬼「矢田!あの茶封筒お前が手渡ししたんだよな」
矢田『は、はい!ちゃんと手渡ししました!』
百目鬼「お前、なんて言って渡したんだ」
矢田『え?あっ、百目鬼さんに言われた通り言いましたけど…』
百目鬼「ちゃんと事務所を手伝ってくれたお前に対する正当な給料の支払いだって言ったのか?!」
矢田『えっと…えー、ちゃんと〝マキさんに支払うもの〟だと言いやした』
ツッこの大馬鹿野郎!!!!!!!
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