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7〔裏番外〕ゆくえ……
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マキ「えへへへへ♪」
百目鬼「なんだ…気色悪い笑い方するな」
マキ「神さんて優しいよねぇ♡」
マキは、俺が両手に持ってる今買った荷物を見て嬉しそうにニマニマしてる。
マキ「神さんって荷物持ってあげたりするんだね♪」
百目鬼「あ?その方がお前が次の買い物しやすいだろ、手に取ったりとか、試着とか…」
俺は普通のことを言ったのに、マキはニマニマ楽しそう。
マキ「神さんのそうゆう無自覚なとこ大好き♪ふふふ♪」
なんだか褒められてる気がしないんだが…、どうせ俺は奏一みたいに気が利かない。奏一だったらどうするか?うーん…
男の格好で俺に寄り添って歩くことに慣れたのか、マキは、さっきっから幻の猫耳生やして小悪魔的な笑顔ばかり浮かべてやがる。まったくタチが悪い…
だが、これからはこうやってマキの本来の姿で出掛けていけたらって考えてる。まあ、近所で手繋ぎは勘弁して欲しいが、賢史や菫に100%からかわれる!!
だが、どっか遠くに出かけた時くらいは。
…マキは無邪気な顔してると年相応のガキのツラをするから、俺と歩いてても仲良しの親戚のお兄さんが遊んでやってるくらいに見えるだろう。
店のガラスに映る自分の姿に目が止まる。普通の顔でも不機嫌に眉の寄った強面な俺の顔。実年齢より老けてはないとは思うが…、マキの隣にいるなら眉間のシワは消せた方が良いか…。
マキ「神さん、何してるの?」
百目鬼「!!。…なんでもない」
マキはキョトンと瞳を瞬いてから、見透かしたようにフフッと笑った。
クソッ!
その日は、たくさん買い物をした。マキが、「こんなにいっぱい買ったの初めて」と、嬉しそうに笑う。家に帰ったら、お利口に杏子とお留守番していたキングにお土産のおやつをやりながら、今日買ったものを一つ一つキングに見せていた。
マキ「見て見てキング、百目鬼さんと選んだ洋服だよ♪可愛い?」
「ワン!」
マキ「フフッ♪ありがとう♪。百目鬼さんってね、センスは良いんだけど、コレは見えすぎこっちは透けてるって煩いんだよ♪」
「ワン!」
キングは意味が分かってないだろうに、マキにしっぽフリフリ相槌のように吠える。
百目鬼「マキ、明日の大学の準備は出来てるのか?」
晩御飯を作りながら尋ねると、マキはニコニコ「もちのロン♪」とご機嫌に答える。今日の買い物がよほど楽しかったのか、ご機嫌で嬉しそうにしてる。
そして飽きずに、買ったものをキングに報告してるが、キングはマキのお気に入りのハート型マグカップを齧ってた。
マキ「あー、キング〝め!〟それは〝め〟だよ!僕の大事なものだからね」
犬と会話してるつもりらしいマキ、子犬がそれを理解できるわけもない。キングは遊んでもらってると勘違いして取り上げられたハート型マグカップがボールのように投げてもらえると思ってしっぽ振って見つめてる。
俺の住んでた家に、マキ用の荷物が増えていく。
なんだかこの歳でくすぐったいような甘酸っぱいような気がして、マキはいつも俺に未知の感情を与える。
今日は、普通に過ごせた。
普通のカップルみたいに出掛けて、買い物して、これからはこういう時間も増やしていきたい。お互いの考えを話して、俺たちのルールと、俺たちの普通を作っていきたい。
そのためには。
もう一度。
マキに、勇気を持ってもらわなきゃなら困ることがある。
俺は、一度別れを突きつけてマキを悲しませた。その悲しみは、マキの心にシミのように残って、マキをビクつかせてるに違いない。
そこだけは、大丈夫だと高を括らない。
俺が修二や奏一を好きだった過去も、別れを切り出し捨てた事も、マキはきっと気にしてる。
俺はマキの変化に気付いてやれない。懐の広い奏一や、人の心に敏感な修二のように気の利いたことは出来ない。だから、マキと仲直りできた今も、許してもらえたと安心したりしない。
マキは、修二以上に取り繕って笑うのが得意だ。
それは多分。マキの中で認めたくないことが、〝無かったこと〟になるからじゃないだろうか?
『茉爲宮優絆の名前は捨てたんだ』
そう言ったマキは、悲しい事や、ムカついたこと、負の感情にまつわる事は、自分に起こったことから切り離して考えるんじゃないかと感じた…。
俺が、修二にしてしまった罪を覚えておこうとしたのと逆に。
マキは忘れることで自分を保って担じゃないだろうか?
俺が今、マキといることを信じられない幸せが訪れてると思うように、マキも、信じられないこと、諦めて忘れてたことが叶ってると、夢見ごこちなんじゃないだろうか?
マキは怖いと言った。
俺も怖い。
マキはきっと地に足がついてない。
幸せであれば幸せなほど現実味を失う。
…夢が覚めてしまわないか心の隅で怯えながら………
マキ「ど…、神さん。パソコンまだやってるの?」
マキは、言い慣れた呼び方を口にしたが、すぐに恥ずかしそうに俺の名前を言直す。
慣れたんじゃなかったのか!?
風呂上がりの良い匂いで、新調したばかりのパジャマを着て、寝室からソワソワしながら顔を出してた。
百目鬼「ああ、今行く」
パソコンの簡単なチェックを済ませ、寝室に入った。ベッドの上では、新しいパジャマと新しい枕カバーに目をキラキラさせてるマキがいた。
百目鬼「あー、今日は、おとなしく寝るぞ。腕枕してやるから悪戯するなよ」
マキ「…はーい♪」
マキは大人しく俺の腕の中に収まった。
明日から大学だから、どうやら俺が言わんとしたことを理解してくれたと思う。
マキは、俺にしがみつくようにぴったりくっついて、眠ろうとしていた。
マキ「……」
百目鬼「……」
マキ「…じ…んさん」
顔は俺の胸に埋めたまま、マキは緊張気味に俺の名を呼んだと思ったら、急に昼間の続きを話し始めた。
マキ「…僕、あるんだ」
百目鬼「何がだ?」
マキ「…女の人と、…一回だけ」
それはおそらく、SEXの話しだ…
マキ「知らない男の人に付いてったら、人がいっぱいいて、何人か相手にした時に…。そこに女の人もいて、そのうちの一人が跨ってきたことがある…。僕も女の人はだめだった…」
…マキが…、一度はぐらかしたことを自分から口にした驚きと、このマキに跨る女って一体どんなだと衝撃が走る。
知らないのに付いてったってことは、枕探しの時か?…
こういう時、なんで返したら良いんだ?
自業自得?
災難だったな?
大変だったな?
だめだ、気の利いた言葉ってなんなんだ?
言葉が出てこず、とりあえず無言は良くないと思い、マキの頭をそっと撫でてみる。マキは猫みたいにすり寄って気持ちよさそうに目をつむった。
こんな時、奏一はよく修二の頭を撫でていた。怒る時も褒める時も慰める時も…
俺の義理の兄弟たちも、とりあえず撫でてやれば、なんとなく気持ちが伝わった気がした。でもそれは家族の場合だ。家族は、俺が言葉が下手なのを知ってる。だから撫でることで、気持ちが伝わった…。
俺は、本当に、言葉が下手くそだ。
こんな時のたった一言が思いつかない。
マキ「……神さん…大好き、おやすみなさい」
百目鬼「おやすみ、マキ」
マキは撫でられて気持ちよさそうにしながら、ウトウトと眠りに落ちていく。
俺は、一体どうすれば、マキの全部を任せてもらえるようになるのだ?
いつまでもマキのふわふわの猫っ毛を撫でながら考え、そのうち俺も、マキを抱きしめながら夢の世界へと引きずり込まれた。
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