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18歳以上ですか?
109にしおりをはさみました!
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109
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階段を下降りる間も、わいわいと生徒たちのにぎやかな声が聞こえると言う事は、ほかのクラスの生徒たちはいまだ体育祭の種目決めに追われているのだろう。
いつもは気にもしない階段までも響くこの声が今日はやけに耳につく。
それだけじゃない。
壁のシミも空を仰ぐ鳥も鳴り止まぬ蝉の鳴き声も、この世界を取り巻くものすべてが頭にくる勢いで俺はいら立っていた。
雑に職員室の扉を開ければ思ったより大きな音が出て、何人かの教師がこちらに目を向けるがそんなこと俺の知ったこっちゃない。
名前すらも曖昧な教師Aが俺におずおずと声をかけてくる。
「高木先生?あの、この時間は体育祭の種目決めでは…?」
「あぁ、もう終わってます。生徒は明日の自習でもしてるんじゃないでしょうかね」
顔も見ず、動きを止めることもなく答える。
自分の席に一直線に向かう俺に、Aは話しを続ける事を諦めた。
なんだこれ。むかつくぞ
いらつく
こんなのまるで…
まるで、あの生徒に嫉妬しているみたいじゃないか。
………?
いやいやいやそんなのあるわけないだろ。
あんな糞生意気なガキに負い目を感じるような俺じゃない
でも…
今は何か幸人の顔もみたくねえ。
こんな風に思ったのは初めてだった。
その日、物凄い形相でPCを睨む俺に近寄ってくる者はいなかった。
………ただ1人を除いて。
「あらぁ!高木君すんごい顔してる…人でも殺しそうな顔してどうしたのよ」
そう。そのたった一人に当てはまるのは
これまた俺をド不機嫌の最高峰に上り詰めさせるこの女だった。
「あ、そういえばさっき高木君を探してゆき……えーっと
氏原先生が1年の教室の方まで来てたわよ?」
………………へぇ
わざわざ言い直した”氏原先生”
ってか名前言いかけたよな
そういえば、幸人を問い詰めたあの日の疑問は晴れないまま、なあなあになっていたことを思い出した。
”ナル先生とどういう関係なのか。”
話の内容はとてつもなく嬉しいものだったのに、今俺の中にはそれをまともに理解できる冷静な脳なんてない。
幸人に聞き出してもよかったけれど、多分あいつはまた何もないと言い張る。
聞くなら今しかねえだろ
限界までつのる湧き上がりそうな感情を必死に、それはもう必死に抑え込んで
可能な限り冷静を装って口を開く
「…ナル先生って…氏原先生とどういう関係なんスか…」
「……………は?」
は?ってなんだは?って。こっちのせりふなんだよ
目の下は痙攣してぴくぴくしてるし心臓なんて今世紀最大に力を発揮して忙しなく動いてやがる
もう、だめかも
爆発までのカウントダウンが始まろうとした時だった。
「あいつ?……学生時代の後輩だったというか幼馴染だったというか……そんな感じ。もしかして知らなかった?」
「………………は?」
想像していたものとは全く違う展開に、どこかへ行ってしまったイラつきと頭に上る熱。
そしてあみ出してしまった新技”は?返し”をナル先生に打ち込んだところで職員室の扉が控えめに開かれる。
「あら。お迎えが来たみたいね、王子の…。いや、あれはお姫様の方かしら」
隣のナル先生は少しばかり楽しそうに俺を肘でつくと、開いた扉を指差した。
幸人はなんだか不安そうに、ちょっと申し訳なさそうな顔をして、こちらに向かって歩いてきた。
「…なに。」
きゅっと袖を掴んで口籠る幸人に俺はあえて冷たい視線を向けて聞いてみる。
幸人がこんな表情で俺を探して用もないのに教室やら職員室に足を運ぶ理由なんてわかりきっていたからだ。
「…えっと……。言い訳?…させてください…。」
隣でその光景を眺めるナル先生は、肩を揺らしながら、もはや堪え切れてもない笑いを何とか口元を覆って誤魔化していた。
それに気付いた幸人がナル先生を見て睨む
…そして”あの日”を思い出したようで、慌てて目をそらした。
幸人の視線と表情は、明らかにあの糞ガキに見せていたものとは違っていて。
俺より付き合いの長いナル先生という存在がいるのに空き時間は俺を優先してこうして会いに来てくれる。もうこの際これがご機嫌取りでもなんでもいいや。
嫉妬心もやきもちもそういう類の感情はどこかに消え去っていた。
俺しか見えてない、俺だけを見てくれるこいつが
あぁ、今日も愛おしいなと改めて思った
そんな新学期の始まりの日。
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