アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
もう離れられなくて#41にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
もう離れられなくて#41
-
指定された駅に降りる。
そこは駐車場もロータリーもない小さな小さな無人駅。
”着きました!”
履歴の一番上にある紫色のバラにそう送れば、
1分もしないうちに既読がつけられた。
”わかった。ちょっと待ってて。”
そういえば何も気にせずに出てきてしまったけれど、
ろくに髪も乾かさないままあんなに走って
前髪はとんでもないことになってはいないだろうか。
せっかくシャワーを浴びて来ても、
寒い季節だというのにジワリとにじむ額の汗を
奏楽さんになんて言い訳をしよう。
そもそも格好だって、この間ありのままでいいなんて言われたけれど
ありのままにも程があるんじゃないだろうか。
着古したパーカーと、
ベルトが無いと落ちてきてしまうゴムの緩くなったボトム。
何ならベルト付け忘れたせいで走りながら何度も引き上げた。
毎日のように奏楽さんと比べて自分を蔑んでいたというのに、
どうして肝心な時に格好がつかないことしちゃうかな。
本当僕はダメな人間だ。
”もう着くよ。”
木造の屋根の下であたりを見渡せば、
少し向こうの赤信号で止まっている黒い車。
忘れるはずがない、
15歩下がってたどり着いたあのワンボックスカー。
待ちきれず、僕は駆け出した。
同じタイミングで青に変わった信号機。
奏楽さんの車が走る車線の歩道に移れば、
その距離はあと数メートルだ。
徐々にスピードを緩めてくれるところを見ると、
奏楽さんも僕に気が付いてくれたのだろう。
ハザードを焚いて止まるその車のドアを、
今度は迷うことなく開けることができた。
「早かったな。いい子だ、美晴。」
「はい!奏楽さん!」
文字ではない、奏楽さんの存在を確かめながら交わせた言葉のやり取り。
奏楽さんの目の下には少しクマが目立って
どこか力がなさそうだ。
あぁ、きっとこの数日間、無理をしていたんだなって。
少ない笑顔がいつにもまして少ない気がして、
僕に何ができるだろうって。
隣でハンドルを握る横顔を見ながらそんなことを思った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
57 / 95