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卒業式とはいうものの、式典を終えても
涙を流している奴はだれ一人いない。
ある人は勉強に励み、ある人はパシャパシャと写真を撮る。いつも通りなようで、少しだけ違うこの空気。
「とーま!卒業だなー!」
「んー?おー。」
全てが始まったあの日、倒れた僕を助けてくれたこいつとは3年間同じクラスで、なんだかんだで気付けば一緒に居た。
こんなやつでも今日が終われば毎日会う事は無くなる…
そう思うと少し寂しいかもしれない。
泣く程じゃないけど。
「とーまはさぁ、好きな人とかいねーの?」
「………は?」
「いや、身長あるし勉強できるしそこそこモテんじゃん?
なのに誰とも付き合ってなかったなーと。」
こいつ、意外とよく見てる。
確かに僕は3年間通して誰とも付き合う事は無かった。
告白されなかった訳じゃないけど、
そういうのは良くわからないんだって言って
ずっと断ってた。
好きな人がいるから、とは言えなかった。
それを言うと、もしかして噂が広まって、
メノウを好きなのがばれるかもしれない。
それがばれたら、メノウと話す事も出来なくなるし
ゆか先生にもきっと迷惑がかかる。
大好きな人と、その奥さんになる人を困らせてはいけないから。
そうやって3年間過ごしてきた。
なるべくメノウの傍に居られるように、
勉強もクラス委員も頑張ったりして。
文化祭や体育祭の係を決める時、立候補者が居なくて
メノウが困っていたら、どんな面倒くさそうな役回りでも進んで手を挙げた。
そしたらメノウがお前は偉いなって頭を撫でてくれるから。
でもそれも今日で終わり。
「好きな人なら、いるよ。」
そうだ、この恋も
今日で全て終わるんだ。
だったら、こいつにくらい
打ち明けてしまってもいいんじゃないか。
第二の親友の、こいつなら。
「僕が…すきなの…は……、」
「ちょ、おい泣くなって!!」
口を開いた途端、急に涙があふれ出した。
メノウを頭に浮かべると、嫌でも蘇る3年間の記憶。
好きの気持ちも、それが絶対叶わない苦しさも、
なのに期待しちゃうくらいの優しさに触れるのも、
僕を呼ぶ声も、手の温もりも、何もかもが終わり。
メノウが好きだと口にする事は、僕にとって
全てを諦める覚悟を持つ事と同じだった。
何処かで未だに現実逃避をしている僕は、
どうしてもその先が言えない。
そんな時、僕の背中をさすりながら困ったように笑うこいつの顔が、少しだけ優しいものになった。
「あー…けど何となくわかるかも。とーまの好きな人。」
「………え?」
「まあ、予想だけど…。当たってたらさ、その…。
めちゃくちゃしんどかっただろ?」
「……?!い、つから…っ、気付いて…。」
「そりゃあ3年間も一緒に居たら見ちゃうだろ。
面倒な係立候補したり成績ぐんぐん上げて俺なんて余裕で抜かしてくし。なんでそんな頑張るんだろうってずっと思ってたよ。」
僕の呼吸に合わせて優しく上下に動かされる手は温かくて、僕が落ち着くためにしてくれているであろう動作に更に込み上げるものがあった。
「逃げずに良く頑張ったな、とーま。」
「…うっ、ふぅぇえぇぇ……っ」
自分たちの事で精一杯の他の生徒たちも、
流石に僕が声をあげて泣けば一斉に振り返るわけで。
気を遣ってくれた第二の親友が、保健室まで手を引いてくれた。
人間になって、メノウと初めて話した特別な場所に。
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