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金色の瞳のチェシャ猫のお話4にしおりをはさみました!
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金色の瞳のチェシャ猫のお話4
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@@@@@@
20時。天花は、全ての業務や支度を済ませて、風呂に入っていた。
「ふぅ…」
一日の業務を終えたのだ。ゆっくりと湯の中に入り、疲れを癒す。
「何くつろいでんだよ」
ガラガラ!と、風呂場があく。
「おいっ!」
勝手に扉が開き、勝手に入ってきた人物を見て驚いた。
「待ってろって言っただろっ!」
反射的に大きめな声を出したが、この風呂は僧侶達も使うため、あまり大きな物音や大きな声を出すと心配して駆けつける。
だから、少しだけ声を潜めた。別に、この男を隠さなければならないという事は無いが、一緒に風呂に入っているのがバレるのはまずい。それは一体何故か…
「だって今日すげー忙しくて、全然構ってくれ無かったじゃん」
「だってになってない」
男は、湯船に入ろうとしてくる。
「おいおい!」
天花は、湯船から出る。
「お前ロクに風呂入ってないだろ」
そう言うと、男を風呂場の床に座らせた。
「お前は、毎回毎回…急に現れるから、叶わん」
ブツブツ言いながら、男の頭からお湯をかけた。
「…また、石けんで洗っただろ」
「うん」
天花もそうだが、剃毛しているため髪はない。だから、頭も顔も身体も石けんで洗っている。最近の若い僧侶は、洗顔フォームを使っているようだが、天花はそう言うものは使わない。だから、シャンプーというものがここには無いのだ。もちろん、リンスもコンディショナーも…この男は『それでいいよ』というが、石けんで洗った髪は、ごわごわなのだ。折角、綺麗な髪なのに、もったいないと思い気づくと用意しておくのだ。
「ちょっと待ってなさい」
天花は、その場に男を座らせて脱衣所にある洗面台の下から、シャンプーセットを出しそれをもって戻ってくる。
「…ピンク?」
ピンク色のボトルの丸みある、愛らしい絵が描いてあるボトルを二本両手にして現れる。よく天花がそんなものを買ったなぁと感心してしまった。
「ユキちゃんそれ、自分で買ったの?」
「うるさい」
突っ込まれたくなかったのか、ボトルのシャンプーを頭で泡立て始める。甘い花の香りが風呂内に充満する。クスリと笑った。
「ユキちゃん可愛い」
ユキちゃんとは、天花のことだ。この男は、天花の本名を知っている。
「揶揄うな」
ワシャワシャと音を立てながら、髪の毛を洗う。
「綺麗な髪なんだから、もっとケアをしないと将来禿げるぞ」
この男は、いつも大体髪が爆発しているのだ。ちゃんとシャンプーで洗えばそんな事にはならないのに、それを怠るから、そう言う事になるのだ。
「禿げたら嫌いになる?」
「ならないけど…」
「なら、いいや」
ここは、嫌いになると言ってやらせるべきなのだろうかと思ってしまう。バサーと頭からお湯をかけて、シャンプーを流す。
「あのなぁ…チェシャ」
この男の名前はチェシャ。
シャンプーの泡を全て流して、続いては別の色のコンディショナーを頭にかける。
「んん〜?」
シャンプーで髪を洗い、続いてコンディショナーを髪にまんべんなく塗布する。その間、チェシャは、大人しくしている。チェシャの髪は細い。そして量が多い。まるで、猫の毛並みのようにふわふわして、綺麗な髪をしているのに当の本人がその髪に気を使わないから、いつも天花がこうして丁寧にシャンプーをしてやる。
「…今回は、何日くらいいれるんだ?」
天花の声が震えていた。少し、寂しそうにも聞こえた。
「んん〜…まだ決めてない」
そうか…
と、天花は言いながら、今度は垢擦りに石けんを泡立てたもので、チェシャの身体を洗ってやる。白くて、細くて、骨張ったガリガリの背中を洗う。武骨な指が掴んだ垢擦りでは、折れてしまうのでは無いかと思うほど、背骨や肋骨は浮いている。
「また痩せたな」
前回、会った時よりも明らかにげっそりと痩せている。
「そう?」
声は変わらないのに…また、太らせなければならない。偏食はないから、食べさせれば、あっという間に太るのだが、会わない間は食べないのか、いつもげっそりと細って戻ってくる。付き合いが長いから、全てが分かって、心が痛む。
「あまり食べてないんだろう…」
最早、小言だ。
「そんな事無いよ…いつもゆきちゃんが食べさせすぎるだけだよ」
暢気な声色のチェシャに、天花はいう。
「また、傷も増えてるし…」
チェシャの身体には、無数の傷跡がついている。
切り傷、縫い傷、火傷…そして銃創。もちろん、大きく引き裂かれたような痕や、急死に一生を得たであろう、抉れた痕がある太ももの傷など。
その身体に触れるだけで、いつか壊れてしまうんじゃないかと不安になる。
「よく気づいたね」
そんな天花の心のうちを知ってか知らずか、暢気なチェシャ。
「気づかないわけ無いだろうが」
「ふーん」
バサーっと頭からお湯をかける。全ての泡を流し終えて、2人で湯船につかる。
「ふはぁ」
「こら、向かいに座れ」
暖かい湯船につかり、冷えてしまった身体を暖める。
チェシャは、当然のように天花の足の間に座ろうとしたが、天花に拒まれて向かいに座らされる。
「ゆきちゃん」
むぅっとふくれるチェシャに「そんな顔してもだめ」といって頑に断る。
「身体をよく暖めなさい」
「良いもん別に暖まらなくても」
風呂に入っている意味が無いではないかと、天花は思う。
「10数えろと小さい頃…」
と、天花は言いかけて止めた。じっとチェシャを見つめる。
チェシャは、首を傾げた。
「なに?」
「…いいや。何でも無い」
チェシャは殺し屋を専門とする組織に所属している、いわゆる『殺し屋』だ。物心つかないうちから、人を殺しているとチェシャは言った。彼の幼い記憶等、思い返したくもない事をつい口走ってしまい天花は反省した。
「それは、そうと何ヶ月ぶりだ?」
野暮な質問をしたことを反省し、話題を変える。
「ん〜?五ヶ月くらいかなぁ〜?」
半年はかからなかったのかと、天花は思った。チェシャは、暢気な表情をしていたのに、フッと悲しそうな笑みを浮かべた。その笑みは、まるで傷のついた硝子のような儚い笑みだった。
「…もたなかった」
チェシャは、天花の骨張った手を握った。チェシャの指は、まるで女性のように細い。
「ユキちゃんにすごく会いたくなっちゃって…」
冷えきった指は、幽霊のようだった。チェシャの声が震えていた。
「そうか」
チェシャは、天花の手を額に当てた。
「いつもより、ずっと早くユキちゃんに会えたのに、すごくすごく長かった気がした」
長い時は一年。短い時は数ヶ月開く事があって、その度にがりがりに痩せて帰ってくる。確かに、毎回弱っていたが、今回の弱り方は、いつもよりも、早い気がした。
「昨日寝てるゆきちゃん見てて、朝動いてるゆきちゃん会って…ああ、やっぱりゆきちゃんの事好きだなって思ったの」
「…」
天花は、チェシャに掴まれている手を翻して頬に触れた。濡れた頬を拭ってやる。
「ゆきちゃん…」
縋るような目でチェシャは見つめてくる。その瞳は、とても神秘的だ。吸い込まれそうな程、美しいと思う。こんなに美しい瞳は、何に例えたらよいのかと、いつも悩む。チェシャの虹彩は、金色をしている。まるで、御釈迦様の後光を閉じ込めたかのような美しい黄金色なのだ。
「…」
天花は、ごくりと生唾を飲みんだ。
「…出るか?」
天花の問いに、チェシャは悪戯っぽく微笑んで「うん」と頷いた。2人は、湯船からでた。
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