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第０章–１ 田舎犬の孤独にしおりをはさみました!
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第０章–１ 田舎犬の孤独
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とある田舎の町に生まれた。
男ばかりの兄弟三人の末っ子。
兄二人は年が近い。
自分は少し離れて生まれたせいなのか、兄たちとは少し距離があったように記憶している。
そのせいなのか、どちらかと言えば大人たちに囲まれて育ってきたような気がする。
特に不便がかかるような環境でもない。
三男な割に一人っ子のように大事に育てられたのだ。
困っていることがあると、何も言わなくても、大人が手を差し伸べてくれた。
兄たちが喧嘩をしていても、それを横目に自分にだけおもちゃを買ってくれる祖父母がいた。
不便のない生活は、寡黙で大人しい今の自分を作り上げた。
兄たちを見習い、小学校から剣道部に所属をして、厳しい世界に身を投じた。
大人に甘えている自分が嫌だったのかもしれない。
剣道は大好きだった。
勉強もせずに夢中になったものだ。
大学進学の時も、「地元に残るように」と、言う兄の意見に耳を貸さずに県外に進学をした。
父親は町議会議員。
兄はその地盤を引き継ぐ後継者になるべく、父の仕事をサポートしながら農協職員になっている。
二番目の兄は、全国転勤のある大手企業に就職。
現在は、海外赴任中である。
元々は農家。
そういう土地柄でもある。
田舎ののんびりとした雰囲気。
仕事勤めしているといったら、役場か農協くらい。
米どころでもある。
そんな世界から出てみたいと思ったのは確かだ。
そして、こう。
今は地元とはかけ離れた町の地方公務員になっている。
反抗心があるわけではない。
ただ、このままでいいのかという思いだったのだ。
地元から通える大学に行くことも可能だったのに。
あえて県外の遠いこの場所を選んだのは、そういう気持ちがあったからなのだろう。
だが子供の頃から知っている友達や知人のいない場所で、引っ込み思案な自分が上手くやっていけるはずもなかったのだ。
見込み違い。
それとも、変われるという自信がどこかにあったのだろうか。
結局。
梅沢市にやってきて、そのまま梅沢市役所に就職をしたものの今も一人。
こうして夕飯を自宅で食べている田口である。
彼の目の前には、コンビニの弁当。
そして、数週間後から新しく異動させられる部署の内示の紙が一枚。
「異動か……」
２９歳になる彼に取ったら、異動はニ回目だった。
また、環境が変わるのだ。
大きくため息を吐く。
全てが見込み違いか。
環境の変化に着いていくのが苦手な癖に。
異動の多い地方公務員になるなんて。
馬鹿げている。
自分で自分を追い詰めているようなものだ。
一番上の兄には怒られた。
『お前に一番向かない仕事選んでどうすんだよ？』
開口一番にそう言われたのが痛い。
『まあ、責任感の強い奴だからな。なんとかなるかもしれないけど、なにもそんな場所で公務員にならなくてもいいだろう。帰ってこいよ。町の役場も人手不足なんだから。いくらだってあてはある。一緒にやろう』
そう何度も説得されたけど。
なぜだろう。
あの世界に戻れる気がしなかったのだ。
家族もいい人たちだ。
自分を可愛がってくれる。
近所の人たちもいい人たちだ。
なのに。
あの緩い世界に戻るということができないのは、どうしてなのだろうか。
自分の人生が、あそこで終わるのかと思うと、居ても立っても居られないのはどうしてなのだろうか。
辛い選択をして、ここにいるのに。
それでもなお。
あそこには帰れない。
だから、仕事の愚痴を話せるはずもなく。
田口は、一人こうしてじっと自分の身に起こっていることを昇華していくしかないのだ。
去年。
覚悟を決めるためにマンションを購入した。
三十年ローンだ。
この町に骨をうずめるのだ。
そう決めようと思ったから。
だけど、その決意の理由はない。
なんの意味もないことなのに。
バカげている。
弁当も飽き飽きした。
大きくため息を吐いて、弁当の蓋を閉じた。
食欲もない。
剣道で鍛えてきた身体も、動かす機会もなく、衰える一方だ。
朝７時に出勤して、帰宅は23時を回る。
土日もやることがない。
職場に足を運んで、仕事をして終わる。
趣味もない。
一緒に酒を飲む知り合いもいない。
家事も苦手で外食ばかり。
田口は、２９歳にして、人生に疲れていた。
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