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21.残されたものたちの決意にしおりをはさみました!
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21.残されたものたちの決意
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その日。
保住を偲んで、彼の自宅に集まっていた面々が場所を変えて集まっていた。
「なんだか、あっという間の一か月だったな」
吉岡の言葉に、隣にいた水野谷が頷く。
「本当ですね。そうそう会っているわけじゃないから、なんだか。保住さん、どこかで元気に仕事をしているような気がしますよ」
「そうだな」
木崎も頷く。
市役所の近くの居酒屋には、市役所職員が多い。
他の人にこのメンツで集まっていることを知られたくないので、わざわざ駅前の居酒屋を選んだ。
「おい、あれ」
それなのに。
たまたまなのだろう。
人事課長の澤井とその取り巻きたちが入ってきた。
それぞれの席は大人の腰くらいの高さのしきりがあり、立っている人からこちらは見えない。
「澤井……」
しかも、バツが悪いことに隣の席に座ったようだ。
「澤井さん、本当お疲れ様でした」
「ここ一か月はさすがにしんどいよな」
隣では、吉岡たちがいるとは思わずに大きな声で会話が始まる。
向こうも離れた店なので、まさか市役所職員がこの場にいるとは思わないのだろう。
「まさか、死んでしまうとは……」
吉岡たちは顔を見合わせる。
取り巻きの言葉に澤井は声を潜めた。
「おい。滅多ことを言うものではないぞ。おれたちが死なせたみたいじゃないか」
「そうですけど。でも、体が弱いのを知っていて国に行かせたのは、澤井さんじゃないですか」
「まあ、それはそうだが。まさかここまでとはな」
「人が悪いですね。本当に」
「澤井さんは、敵に回したくないですよ」
会話を聞いていた木崎はこぶしを握って立ち上がろうとする。
それを吉岡たちは止める。
「やめておけよ」
「ですけど……」
隣の会話は続く。
「ただ、まだまだあの人の意志を継ぐものたちはいると聞きます。おれたちの公務員人生を謳歌させるためには邪魔ものです。みんな、これからも澤井さんが副市長になれるよう、協力をしてやっていこうじゃないか」
誰かの声にそこにいたメンバーたちは息まく。
とてもここにはいられない。
吉岡たちは、居酒屋を出ることにする。
一同が居酒屋をあとにする中、ふと吉岡は澤井を見る。
周囲は笑顔で騒いでいるが、澤井は浮かない顔をしていた。
ただ黙って日本酒をあおっているのだ。
澤井は、なにを考えている男なのか分からない。
だが、少なくとも付き合っている連中は、自分にとったら悪。
吉岡はそう思いながら、外に足を運んだ。
「悔しいですよ!吉岡さん!!」
地団太を踏む木崎や深谷たちを吉岡は諫める。
「耐えよう。澤井のしたことは、結果的に保住さんを追い詰めたかもしれないが、それだけではないから責めることはできない」
国に派遣したこと自体は、悪いことではない。
むしろ、彼の能力を買った結果ということになる。
ただ、それには裏があったということか。
「おれたちにできることは、保住さんの意志を継ぐことだ」
吉岡は、他のメンバーを見る。
「ここで誓おう。おれたちは、彼の意志を継ぐ仲間だ。それは退職するまで変わらないのだ」
吉岡の言葉に木崎は頷く。
「誓う」
「おれも」
「おれも」
そこにいたメンバーたちはお互いを見て誓う。
今までのんびりと暮らしてきた。
野心も希望もない。
だけど。
譲れないことってあるって理解した。
澤井には負けない。
「おれは、澤井を許さない」
吉岡はそう呟いた。
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