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❖にしおりをはさみました!
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「____わぁ……広いですね」
絹井さんから突然の誘いがあったと事情を話すと優斗は嬉々としてついてきた。
このご時世でありながら理解者の存在は相当な救いのようで、絹井さんへ好印象を抱いていることがよく分かる。
都内で第2の隠れ名スポットと呼ばれる釣り場は上流から下流まで自由に利用でき、俺たちのいる中流付近ではバーベキューセットやログハウスも用意されている。
優斗は釣りが初めてなのか、普段より上機嫌だ。
「絹井、今日は客が少ないからサービスだと。そこの連れさんも一緒にな」
「ありがとう、嬉しいよ。キミの爺様は懐が大きいね」
「はっは! んなこたぁないけどよ。ほら、べっぴんさんがいるからだよ」
ここの管理者の孫らしい男はウィンクをすると、川辺で小魚を眺めている優斗を指さした。
おいおい、ジジイにまでモテてんのか。
これは神経すり減るな……
「はぁ……」
「あれ? 松本くん、どうかしたかい」
「あ、いえ。ルアーでもよかったんですけど、あいつは経験ないんですみません」
「いいんだよ、本格的な釣りも楽しいじゃないか。少し遊んでいてくれ、練り餌を買ってくるよ」
「ありがとうございます」
ログハウスの方へと向かった絹井さんを見送り、屈んで遊んでいる優斗に歩み寄る。
こうして見ていると子どものようで可愛いんだけどな。
「靴、濡れるぞ」
「可愛いんですよ。指にくっついてきて」
優斗の指先にドジョウが数匹集まっては逃げていく。
「あはは、可愛い」
「……」
お前がな。
「おいで〜。うわっ、跳ねた」
「人間以外の動物は好きだよな、お前」
「っ……人間だって、好きです。人によりますけど」
「ぷふ、冗談だよ。やっぱり美人に見えるんだなぁ、誰から見ても」
「え?」
「なんでもない。釣り餌はミミズだから優斗に任せたわ」
「はっ!? み、ミミズ!!? て、あッ……」
立ち上がった拍子にバランスを崩した優斗の足元が大きくグラつき、慌てて背を支えた。
危機一髪、川に倒れることなく腕のなかに落ちつく。
「あっぶねえ、体幹なさすぎだ」
「っ……」
間近にある顔が紅潮している。
転びそうになった羞恥心よりもこの体勢が恥ずかしいと言いたげだ。
「……キスしていい?」
「や、ですよっ……なに言ってんですか!」
「可愛い顔するから」
「だって、恥ずかしいじゃないですか……ありがとうございます、もう大丈夫なん__」
さりげなくキスして優斗を離す。
絹井さんは理解者で、客も少ない。
こんなチャンスのような日に手を出さないなど無理に決まってる。
「って、いい歳したオッサンなのになー」
「まだ三十路にもなってない人がなにを言って……」
「お前の唇やわらかくて好き」
「! も、もうそういう話やめてください。ドジョウ逃げちゃったじゃないですか」
「俺のせいかよ」
ミミズの一言に体勢を崩すとは、芸人のセンスあるだろ。
「お待たせー。餌を買ってきたよ」
「ッ! ミミズですかっ」
構えの姿勢でオーバーに後ずさりする優斗が面白くて、さすがに吹き出してしまう。
ミミズがかわいそうだ。
「? ミミズじゃないよ、練り餌と赤虫だよ」
「…………アカムシ?」
「ほらこれ。普段は冷凍保存するんだけど、こうやって練り合わせてあるんだ」
「え? 虫なんですか、これ」
「そうだよ」
赤い塊が、水に漬けると細長い糸のようになって分かれる。
絹井さんはそれを手に取ると釣り針の先に器用に引っかけた。
若干引き気味の優斗だが、初心者は大体こういう反応をするものだ。
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