アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
❖にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
❖
-
どれだけ身をよじって忘れようとしても体の震えは治まるどころか増していく。
みんな俺が嫌いだ。
保護者の井口さんがそう言っていた。
俺がちゃんとしないから。違う、違うんだよ。
「もう……やめろよ……っ」
潰れるくらいにクッションを抱きしめたとき、髪に触れた何かにビクッと体が跳ね上がった。
「っ!」
「……優斗、また悪い夢でも見たのか」
「亮雅……さ……」
声が出なかった。
自分の意思に従わずガクガクと震えだす手が恐怖を煽ってくる。
なにが怖いんだろう。
亮雅さんが目の前にいるのに。
「俺は……俺、は……っ」
「優斗、大丈夫だ。落ち着いて息を吸え」
「ッ……は、はぁ……」
ベッドに乗り上げた亮雅さんは俺を抱きしめてくれた。
そっと背をなでる手が恐怖を鎮めていく。
もしかしたら自分は治らない病気なんだろうか。
激しい思い込みだけで、病気なんて存在しないんじゃないのか。
そんな自分を責め立てる疑問ばかり浮かんできて、目元が掠れてきた。
「う、く……っ、亮雅さん……」
「大丈夫。優斗はなにも悪くないんだよ、誰もお前を責めてない。安心しろ」
「ごめ……ん、なさい……」
「よく耐えてきたな。偉いよ、優斗は」
気がつくと涙が溢れ出して、亮雅さんの肩に顔を隠した。
その手になでられてサメのクッションを抱いている俺はまるで子どもみたいだが、泣いても泣いても涙は止まってくれない。
「なん、か……とまん、な……っ」
「いいよ、泣け泣け。泣けるってのはいいことだ。いつも陸の父さんとして頑張ってんだから、陸が寝てるときくらいいつもの優斗でいい」
「っ」
いつもの優斗って、なんだよ……
バレてるじゃないか。もうとっくに。
どうして隠そうとするんだろう。
亮雅さんは俺を知りたいと言ってくれるのに、どうして言えないんだろう。
「そんな怖い夢だったのか」
「…………両親が、喧嘩してて、克彦と俺の成績に差があるのがおかしいって。昔の……記憶です」
「……」
「最近、言われた覚えのない中傷的な言葉まで夢に出てくるので……正直、怖いです」
「それだけ根強い恐怖体験をしてきたんだ。優斗が悪いなんて少しも思わなくていい。また寝れそうか?」
「……っあ」
ベッドに亮雅さんが潜り込む。
先に寝てしまったら、俺はもう眠れない。
言わなきゃ、自分の言葉で。
「……亮雅さん」
「ん」
「す、すみません……1人で目をつぶるのが怖い、ので、起きてて……ください」
最後の方はフェードアウトしたように小声となってしまった。
成人した男がなにを言っているんだと思われるのも不安だ。
でも眠れない恐怖の方が、もっと苦しい。
「ふ……謝るなよ。ちょっと暑いけどくっついて寝るか。ここに頭置いて」
「……っ、はい」
亮雅さんの腕に頭を乗せ、空いた手で肩を抱かれた。
もう小学生になった陸は1人で寝ることも多くなっていて、ベッドの隅で夢心地気分だった。
まだ微かに震えている手を握りしめて亮雅さんの胸へ顔を埋める。
「暑くねーの」
「暑い、です」
「エアコン温度上げるか〜」
「……ありがと、ございます」
「ほら、サメのぬいぐるみがあんだろ? だからなんも怖くねえ」
「なんの自信なんですか……」
「はは……怖さなんて、こうしてればいずれ落ち着く。だから早く寝ようとか意識しなくていい」
眠たくなるまで話していよう、と珍しいことを言った亮雅さんには一瞬驚いたが、激しかった鼓動は今が安全だと判断したようだ。
徐々にゆっくりと脈を刻み始め、気づいた頃には意識が遠のいていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
100 / 231