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ささいなことにしおりをはさみました!
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ささいなこと
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「お富ー。ちょっと分けてー」
「あんたねー自分の食べてからにしなさいよ」
目の前でパフェにがっつくモリクミとお富さんを対面で俺と松永は見ていた。
お富さんが一時帰国している間は会社が終わるとお富さんと遊ぶことが多かった。
「日本の甘いのはほんといいわぁ。あっちてさーコテコテに甘いし匂いもすごいの。そりゃ太るわ」
「あーんっ!!お富あたしに喧嘩売ってるのー!?」
「モリクミなんてかわいいもんよ。モリクミを超越した生き物がたくさんいるんだから」
「やーん!?あたしかわいいんですけどー!?マジかわいいから言われなくても分かってるんですけどーっ!?」
「おいおい。モリクミそういう言われ方はしてないと思うぞ?お前自分をかわいいってか!?おいおい・・・・・寝言は寝て言え」
「じゃあ松永くーんと長野くーんの家で寝ますーっ!!」
「アホかっ!!」
「みんな声でかい・・・・」
コジャレたデザート屋なので女だらけでスーツの俺と松永が浮きまくり。だがイケメン二人のスーツの破壊力はいかんなく発揮されているっぽい。
俺たちが大声で騒がなくても充分目立っていた。
「やーん!!こうしてるとWデートしてるみたいだよねー!!」
「おい。冗談でもやめてくれ。マジ勘弁」
モリクミのわけがわからん鼻高々な調子も俺らを引き摺り回して周囲の女に俺たちが見られてるからなのか?変な優越感をモリクミは出していた。なんかむかつくんだが。
俺らゲイですけどね、っと。
「松永くーん!!苺あーんっ!!」
「結構です」
「おぃいいいい!?モリクミぃいいい!!松永に苺アーンッとか一生出来ないから無駄なことやめーやっ!!」
「やーん!?」
「三人共相変わらずで妙な安心感あるわ」
お富さんが爆笑しながらハイタッチを求めて来る。
最近俺たちの中のブームでしかないが何かあるとハイタッチをする習慣が付いた。
お富さんもそれにすぐ慣れて今回の一時帰国の間なにかあるとハイタッチばかりしてたな。
松永もハイタッチを求められてしょーがないといった感じでそのハイタッチに付き合う。
テンション高めな俺たちと違って松永は女だらけな店内で視線がガンガン注がれて居心地が悪いのかもしれない。
「松永ほらこれ。アーン」
「いいよもう・・・・・」
俺がフォークで差したカットフルーツを松永の口に持って行く。
「ほらあーん」
「もう・・・・・」
仕方なしといった感じで口を開けてモグモグしている。
「長野やめりーよ。モリクミ先輩がはぁはぁしてるやん」
目の前に座るモリクミの目がハートになっている。
「今日のオカズゲットか?モリクミ」
「あーん!!ご飯5杯余裕ですっ!!そして長野くーんと松永くーんにプレゼントがっ!!」
「なんですか?」
モリクミの持って来た紙袋をガン見しながら松永が聞く。
「これよー!!蝶ネクタイよーっ!!」
「はい?どうして蝶ネクタイなんです?」
「あーんっ!!裸に蝶ネクタイーっ!!」
「モリクミ先輩声でかい!!」
モリクミ興奮し過ぎ。
だがグッジョブモリクミ。
その考えはなかった。
いいではないか。
俺と松永の夜の生活に潤いをお前はたまに与えるな。たまにだ。本当にたまにだ。
「やーん!!裸執事ーっ!!ああーん!!」
「モリクミが何に興奮しているのかあたしにはちっとも分からないけれど言いたいことは分かったわ。友達としてどうなのよそのプレゼントは」
「これはいいものをもらったな」
「バカか」
松永に頭をド突かれる。
「あーん!!長野くーん!!上半身だけでいいの!!裸に蝶ネクタイの写メ撮って二人の送ってーぇええええ!!」
「こいつ腐ってやがる.......上半身でも送るかってーの」
「しないし撮りません」
モリクミが腐っていたのは大学時代から気付いていたが。
読んでる人ももちろん気付いてるよね?
鎌やんが合流する。
「おー。鎌やんのスーツ姿って珍しいな。ちゃんと仕事してるのか?」
「失礼だなー。僕ちゃんと働いてるよー?」
大学時代の耳ピアスと茶髪ロン毛ではないスーツ姿の鎌やんはなんか不思議だ。
「鎌田先輩も忙しそうですよね。仕事終わりに舞台の練習して休みも舞台とか公演とか。他の劇団の客演とかもしてるし」
「そうだねー。苦じゃないよー好きだからねー」
鎌やんもあんまり歳とらんなぁ。
前に松永も言ってたことがある。
「夢持ってる人とか若く見えるよね。鎌田先輩とか」って。
そうかもな。
5人で移動中に海の話になる。
「そう言えば海って行ったことないよねー?山とか奥多摩とかは行ったけどさー」
「あー?そう言われればそうかも。大学生の夏って言ったら海って感じぃ?でもあたしたち海とか行ったことないね?どうして行かなかったんだろう?」
「あーん!!今からでも遅くないわっ!!今度みんなで海に行きましょーっ!!さぁ早く!!今すぐ海へっ!!ウヘウヘ」
「お前俺たちの水着姿見たいだけやろーが。お前の水着姿とかやめろ。何テロだよ」
「ひどぉおおおい!!あーん!!長野くーんがひどいのぉおお!!」
「僕も嫌です。太陽と暑いの嫌いです。バクテリアだらけの海なんかに入りたくありません」
「あーんっ!?」
結局海の話は流れた。
松永の水着姿とかそう言えば見たことないなぁ。
高校の時水泳の授業もあったけどクラス違ったしなぁ。
「松永海で泳いだことあるん?」
「うん。小学一年生の時に」
「それ以外は?」
「それ以来行ってない」
「どうして?」
「死んだお母さんとお婆ちゃんとお手伝いさんに連れてもらってからは行ってない」
いかん。
松永は気にせず答えたけどそうやった。
松永の母ちゃん死んでから一人だったのをつい忘れてた。
家族で海とかそれからなかったんやな。
「そっかー。海行ってみる?」
「いいよ。暑いし人多いし太陽嫌いだし」
「そだな」
「うん」
でもさなんとなく思ったんよ。
海に連れて行ってあげたいって。
だから次の週末の夜に海にドライブに行くことにした。
太陽嫌で人多いのがダメなら夜に連れて行けばいいやんと思った。
俺たち二人だけのはずがまたあいつらが邪魔をする。
「あーんっ!!海へー!!」
「ゴーゴーっ!!」
モリクミとお富さんが妙にテンションが高い。
「なんでお前らまで?」
「舞台練習が明日夜からだから大丈夫だったんだよー」
「鎌やん呼んでねーよ!!」
「なんで僕まで呼び出されんのさ。週末の夜に」
「じゃあ帰れよ!!お前ニチョかテンバでも行って男でも食って来い」
「そうなんだけどさぁ........それだけじゃつまらないじゃん」
なんとなく分かる気がする。
吉野は男漁るだけの生活に飽き飽きしてるし虚しさを感じてやがる。
そういう刺激だけじゃ足りなくなってんだろうな。
きっと寂しいんだろう。
モリクミや俺の車を出してバラバラに行ってもよかったが
「なんだかそれじゃ味気ない」
という話になって全員で乗れる車を借りて(俺の車じゃ6人も乗れねぇ)海へ向かう。
「夜の海ってどうなのよ?」
「やーんお富ー怖いのー?」
「ヤンキーとかいるんじゃないの?夜の海とか不気味とか危ないイメージしかないんだけど」
「大丈夫じゃないー?こっちモリクミも長野君もいるしー。いざって時は二人がなぎ倒してくれるよー。見た目だけの吉野君と違ってー」
「鎌田てめぇえええ!!あたしはか弱い生き物だっつーんだよ!!あーん!!松永くーん長野くーん!!あたしが襲われた時はよろしくねー!!」
「ないです」
「ないない」
「あーん!?」
松永と二人で手を振ってモリクミの冗談を流す。
クーラーボックスには酒とかジュース。
つまみも買った。
帰りの運転は酒が飲めない松永がするから海を見ながら酒盛りが出来る。
ネットで調べておいた穴場の海へと車で走る。
夜で道も空いていたから到着は早かった。
「海の匂いだね」
車を降りると潮風が吹いていた。
「海だねー」
「めっちゃ海」
「これでもかって位に海だね」
そんなしょーもない感想を述べながら海へと降りる。
砂浜にシートを敷いて酒盛りをする。
月がいい感じに出ている。
松永はシートの上に体操座りをしてじっと夜の海を見ていた。
昔のことでも思い出していたのかもしれん。
俺はビールを飲みながらそんな松永の横顔に見とれる。
「波の音って案外静かな音なんだね。忘れてた」
俺の視線に気付いて松永がこちらを見る。
「そうやな、静かやなぁ。こいつらさえいなければもっと静かなんやろけどなぁ。ちょっと歩いてみよっか」
「うん」
サンダルに履き替えて二人で砂浜を歩く。
夜で足元がよく見えない。ワカメ?みたいなグニャっとしたものを踏んだり砂に足を取られそうになる松永と手をつないで歩く。
モリクミの怒声が聞こえる。
また鎌やんか吉野と喧嘩でもしてるんだろう。
「あのね」
「おぅ?」
「別に海に行きたかったわけじゃないんよ。でもさお婆ちゃんとお母さんはね僕が海に行ったことないからって連れて行ってくれたんよね。二人共目が見えんけんねお手伝いさんに僕たちみんな手をつないでもらってね」
「おぅ」
「周囲の人には不思議な光景だったと思う。お手伝いさんの二人にね海で泳いで来んね?って言われたけど三人でシートに座ってただ海の方向いて座っとった」
「そっか」
「うん。でも嬉しかったよ。お婆ちゃんとお母さんの気持ちが。長野も同じ気持ちで連れて来てくれたんやろう?ありがとう」
「おぅ。戻ろっか」
「うん」
今松永の手をつないでるのは俺だけなんやなぁと思った。
「蝶ネクタイ」
「え?」
「蝶ネクタイつけてエッチしたい」
「は?」
「エッチしたい。だめ?」
「はぁー.........そのお願い聞いてもらう為に海連れて来たとか言ったら長野に僕はげんなりする。僕のありがとう返せ」
「違ぇええええええ!!そうじゃないけど蝶ネクタイつけてエッチしてぇええええ!!うぉおおおお!!想像しただけで萌える!!」
「モリクミ先輩と変わらんやん」
松永が呆れて手を離そうとするのを離させないように手を握り返す。
「!?」
「だーめ。手離しちゃいかんよ」
離したらいかんって。
もう俺だけなんやろ手を握ってくれるの。
俺も松永だけでいいんよ。
「はぁー。分かったよ蝶ネクタイしてそんなにエッチしたいならしてもいいよ」
「マジで!?」
「なにがいいのかさっぱり分からん.......」
「シチュエーションに萌える」
「はぁ..........なん?シチュエーションって?」
「えーと俺ご主人様。松永俺の執事で裸執事」
「バカだ........モリクミ先輩よりもひどいかもしれない」
あーそうだ。俺はバカだ。
バカで結構。
戻って来た俺たちにモリクミが絡んで来る。
「やーん!!イケメンが二人手をつないで現れたーんっ!!」
モリクミが酒臭い息を吐きかけながら寄って来る。
「おいモリクミ。体当たりして来るな」
鎌やんは早々に潰れて寝ている。
お富さんは黙々とワインボトルを直飲みしていた。
吉野はチューハイをチビチビ飲みながら携帯をいじっている。
こいつらは相変わらずだ。
「いつも通りだね」
全員の様子を見て松永が笑う。
「そうやなー。モリクミービール取ってー」
「了解でーす!!」
ビールを受け取って流し込む。
酔いが回って来て松永に膝枕をしてもらっていた。
波の音を聞きながら松永の膝の上でまどろむと気持ちよかった。
下から松永の顔を見上げると松永の母ちゃんに本当にそっくりだなーと思う。
写真でしか見たことないけど本当にそっくりだ。
頭を撫でられる。
松永も母ちゃんにこういう風にされてたんかなぁ。
潮風とは別に松永の甘い匂い。
「長野」
「なん?」
「寝んでよ?寝たらなかなか起きんちゃけん」
「分かっとー」
もう少しこうしててもいいやろ?
モリクミも潰れたかな。
静かだ。
二人でそんな体勢で波の音を聞きながら海と海の上に浮かぶ月を眺めていた。
シャッター音が聞こえる。
背後のお富さんが俺たちでもまた撮っているんだろう。
松永が背後を振り向いて笑うのを見た。
ささいなことなんやけどね幸せだなって思える瞬間あるよね?
その時そう思った。
そんなささいなことの連続だ。
「長野?長野って!?」
眠りに落ちる俺に松永が声をかけてるのが遠くで聞こえる。
俺は松永みたいにいろーんなことに気付けんかもしらんけど。
そんなささいなことを見逃さないようにしようって松永が俺を呼ぶ声を聞きながら眠りについた。
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