アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
何故アンデッドじゃないの?にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
何故アンデッドじゃないの?
-
ビアリーは宣言通り日々真面目に勉強している。
アンデッドの性質、他種族の特徴、戦術、戦略、魔法学...覚えなくてはいけない事は無限にあると思えるほどだった。
一方ドストミウルも手を抜くことなく教育に力を入れていた。カノルとの約束もあるが、なによりビアリーの素質を見抜いていたからだ。
始めは下位のアンデッドと思い込んでいたものの、ビアリーは記憶力、魔力共に他のそれより優れていた。アンデッド特有の悪性は低いものの、その鋭い思考と判断力は上に立てる能力を感じさせた。初めの頃はこれを野放しにしておかなくて良かったとドストミウル自身思ったほどだ。
その日もビアリーは部屋でドストミウルから指導を受けていた。カノルは使用人としての仕事で部屋には居ない。
机に向かい地図を眺めていた。
「ここが人間の王都だ。北がタゴラ地方、西がイトアラ、東はミゼ、南はオスカガ...今はオースと呼ぶようにになったか。」
『私たちのお家はどこ?』
「ここだ。アンデッド族が多いのはここと、タゴラのデデク谷だ。デデク谷は死者信仰もあつくアンデッド族の聖地もある。アヴァリニオンもこの近くに住んでいるらしい。」
『アンデッドの聖地もあるのになんで谷に住んでないの?』
「はるか昔は私もあちらにいたさ。だが、今では強力な固有アンデッド族も増えてあえてあそこにいて聖地を守る必要がなくなったのだ。こちらの方がヴァンパイアとも連携が取りやすい。」
『ヴァンパイア族に合わせたということ?』
「それもひとつの理由と言うだけだ。こちらの土地環境と利便性を今は気に入っている。だが、これから先も住居を変える可能性は無いとは言えない。」
『わかった。』
ビアリーは頷くと地図をまじまじと見つめた。
曖昧な記憶と共に人間からアンデッドになったビアリーは初めの頃自らがアンデッドであるという自覚が薄かった。だが、今はその自己認識がしっかりしている。日々の生活や負傷に対する体の症状、そして周りの同種達の様子からその認識は強くなった。それと共に残っていた人間としての記憶は徐々に薄れていた。
今では自らは王の娘であるという自覚と自信が勝る常である。
『王都も行ってみたいな。パパはそこに住んでたんでしょう?』
「生まれは違うらしいが、ここに来る直前は王都に居たらしい。」
『いつかパパと人間の街を歩いてみたいわ。』
「下らない理想をえがくのはやめておけ。カノルはきっとそれを嫌がる。」
『ビアも強くなれば明るい時に外に出られるようになる?』
「お前の頑張り次第だ。」
『わかった。頑張って強くなっていつかパパとデートする。』
「何年かかるか分からんがな。」
『パパが生きてるうちに、できればいいけど。』
ビアリーは地図を見つめて少し目を伏せた。
『ねえ、お父様...』
ドストミウルは少し声を小さくしたムスメを見た。
『なぜパパは私達と同じアンデッドじゃないの?』
「...」
『お父様はそう思わない?アンデッドだったらずっと一緒にいられるのに。』
「それを望めないからこそ、あんなにも輝いて見えるのだ。」
『お父様は辛くないの?』
「...私はどんなに辛くとも構わない。彼さえ幸せでいればそれでいい。」
少し憂いを含みながらも、覚悟を決めたような父の声にビアリーは安堵を得た。
『...そうね、私もそう思う!パパにはたくさん笑ってて欲しいし、幸せでいて欲しい!』
「お前も分かってきたな。」
『ここの人はみんなパパの事が好きね。』
「そのようだ。しかし、彼の事を誰にも譲る気は無い。あれは私のものだ。」
『頑張ってねお父様、でも私も頑張るから。』
「ほう、私を好敵手にしようと?」
『うん、パパを思う気持ちはお父様にも負けたくない。』
その目に宿る熱をドストミウルは感じていた。
ああ、成程。私を前にしてこの野心。
「這い上がりたくば努力せよ。良いな。」
『はい、お父様。』
ビアリーは力強く頷いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
48 / 70