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21にしおりをはさみました!
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21
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〜空夜side〜
「うぅぅん……」
「さっきから唸ってどうしたんだよ?」
「あ、ごめん、うるさかった?」
同じ部屋の陸玖はイヤホンをつけて動画を見ていたので大丈夫かと思っていたが、声は聞こえていたらしい。
空夜は同じくイヤホンをつけて動画を見ているが、その動画は『青鷺』だった。
「いや、なんか空夜が珍しくすごい顔してるから気になって聞いてた。」
「あ、そう……」
「で、どうしたん?何見てるの?」
「あー、うちのクラス、合唱コンで青鷺歌うことになって……」
「音取り?もうやってんの?早くね?」
「いや、まあそれもそうなんだけど……」
今日起こったことを説明すると、陸玖はなるほど、と苦笑する。
「なんだよオーディションって……」
「はは……昴流は空夜にやって欲しかったんじゃん?」
「いやまあ、そうだろうけどさぁ……」
目で訴えかけられていたのは視線で感じていた。
あの強烈な視線は、確実にお前がやれ、というものだった。
「空夜って、吹奏楽部でも指揮やってんだろ?なら普通にオーディションで勝てるんじゃね?」
「合唱と吹奏楽じゃ全然違うよ……それに、当日まで昴流と合わせられないから、ひたすら1人で音源で練習するしかないから、rit(*)とかのタイミングも……うぁぁぁ、考えること多い。」
「空夜は真面目だよなぁ。もうちょっと楽にいけよ。それ、割とすぐやるんだろ?それならみんなもまだそんなに歌えないし、空夜だけ完璧でも怖いだろ。」
「……まあ、確かに、そうだけど。」
「緋村先生のクラスってことは、どうせ来週の昼とかから練習するんだろ?朝練と放課後練はゴールデンウィーク明けないとやっちゃダメだけど、昼練は委員会顔合わせ後は自由だしなぁ。昼だけキーボードも貸し出してもらえるもんな。」
「うん、来週月曜から毎日1週間、パート練(*)して、次の週の月曜日の昼休み、合わせてみる。」
「じゃあまだみんなは音取り終わった、くらいの段階でやるわけだし、そのあともう1回パートごとに分かれるんだろうし、空夜が思うように振ってみたら?調整なんてそのあと1ヶ月もあるんだし。」
「……そう、だね。陸玖の能天気もたまにはいいかも。」
「おーい!せっかくいいアドバイスしたのに失礼じゃね?!」
「そんなこと言って……自分も試合の時はどヘタレのくせに。」
「うっ……それはつつかないでもらえると……」
陸玖は普段と、野球の試合中とでは、ものすごいギャップがある。
「まあでも、とりあえず音取りと、指揮の練習はするわ。」
「頑張れー。」
「陸玖のクラスはどうなの?」
「んー、指揮は野田くんがやるんだって。」
「え!ほんと!!明日声かけてみよ。」
「そういや吹奏楽部だったな。」
「うん。ピアノは?」
「野球部マネの宗田さん。」
マネージャーの宗田彩未(そうだあやみ)とは空夜も何度か話したことがあるが、ピアノができるのは知らなかった。
「伴奏練習、4月19日?とかからだから、早く始まらないかなって言ってた。」
「あー、グランドピアノ触れるのは音楽室と体育館だけだもんね。」
「そうそう。昴流はピアノ教室で触ってんのかな?」
「うん、そうだと思う。」
「青鷺って、伴奏難しいんじゃなかったっけ?去年の野球部のマネージャーの先輩がやってた気がする。」
「うん、難しいよ。昴流でも、1週間で通しで弾くのがやっとじゃないかなぁ……」
「まあ、毎日練習できるわけじゃないしな。昴流はフィギアもあるし。」
「うん。」
「まあ、昴流は空夜がいいって言うだろうし、クラスのみんなも指揮見たらすぐ決められるだろ。その経験のない鳥谷さん?よりは絶対空夜の方がうまいし。」
「なんで陸玖の方が自信あるのさ。」
「うーん?俺の片割れだから?」
「なにそれ。」
空夜がくすくす笑うと、陸玖も笑う。
「いやぁ、双子の勘的なね。」
「意味わかんない。でもありがと。」
「おー!」
陸玖のおかげで、空夜は少し気が楽になったのを感じた。
*rit:リット、リタルダンドの略。
(※リタルダンドはだんだんゆっくり、という音楽の指示用語)
*パート練:パート練習。ここでは、ソプラノ、アルト、テノール、バスの各パートに分かれた練習のこと。吹奏楽では楽器ごとに分かれることをパート練習と指す事が多い。
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