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第七章にしおりをはさみました!
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第七章
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病室には、目を覚まさない悠叶と迅鵺の二人きり。悠叶の寝顔を見ながら迅鵺は思っていた。
“やっぱり、何かどうしようもない理由があったに違いない”と。
悠叶の母親はとても優しそうで、悠叶から実家に帰った時の事を猫のハナコの写メと共に聞かされた事もあった。
迅鵺はあの日、ちゃんと悠叶の話を聞こうとしなかった事を酷く後悔していた。
真っ暗な路地裏に置き去りにしてしまった。
震える手を額の前で組んで、心を落ち着かせるように目を瞑り大きく深呼吸をすると、組まれた手をゆっくり解(ほど)いて、眠る悠叶の顔を見詰めた。
「───悠叶さん、目を覚まして下さいよ・・なんすか、自殺って・・今すぐにちゃんと話して下さいよっ・・せめて、お母さんだけは悲しませたら駄目でしょ。悠叶さんっ──・・」
声を掛けても返事がある訳もなく、整った顔はピクリとも動かない。
なんの反応もなくて迅鵺が溜め息を吐いた時、病室のドアがノックされた。
ノック音に反応して後ろへ振り返ると、姿を現したのは響弥だった。
「────鮎沢は、どうなんだ?」
少し気まずそうに迅鵺の隣まで来た響弥は、そう訊ねると、迅鵺は首を横に振った。
「異常はないみたいなんすけど・・目ぇ覚まさないです。」
「────そうか・・」
悠叶を敵視し嫌っていた響弥だが、この時ばかりはこれ以上何も言わなかった。
この日は結局、悠叶の目が覚める事はなく営業時間が迫って来たので、二人は病院を後にした。
それからと言うもの、迅鵺はいつも通り仕事をこなし、営業の後も妥協する事なくアフターにも行った。
アフターが終わる時間によっては、一睡もせずに悠叶の見舞いに毎日通い、あっという間に一週間が経った。
この日も迅鵺は病院に来ていて、ベッドの傍の椅子に腰掛けている。
「────悠叶さん、いい加減、目ぇ覚ましませんか?もう、クリスマスになっちゃいますよ?クリスマスも一人で眠って過ごすんすか?───随分、寂しいクリスマスっすね・・・」
迅鵺のお店も、クリスマスイベントに向けて活気づいてきている。あと数日もすれば、世間でもクリスマスだ。
ふと病室の窓から外を見てみると、都内には珍しく雪が降っていた。
「────悠叶さん、雪っすよ。今見とかねえと、いつ見れるか分かんないっすよ・・」
迅鵺の切実な想いとは裏腹に、悠叶の瞼は閉ざされたまま。
悠叶の寝顔を見ていると、迅鵺は夢の中の悠叶を思い出した。
「────そういえば、悠叶さんの唇冷たかったっすね・・・」
迅鵺は珍しく雪なんて見たからか、やけに悠叶の寝顔が綺麗に見えて、儚げな唇に吸い寄せられるように指先で触れた。
「─────温かいじゃないっすか・・」
迅鵺は無性に悲しくなって、気付くと一筋の涙が頬を伝っていた。
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