アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
おまけ? サクラサクにしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
おまけ? サクラサク
-
高校二年の春。
四月三日、確か水曜。
ガチャ、と玄関のドアを開けると、目の前には天敵が立っていた。
「こんにちは。先輩」
「…………どうも」
篠だ。
と、思った。
篠原千明だ。
何を言うでもなくただぼけっと突っ立って相手の言葉を待ってたら、
察したのか「挨拶に来ました」と篠は笑った。
「あ、挨拶?」
なんかそんなんされるようなことってあったっけ。
突然の訪問に声も出ねえし軽く引く。
偶然マンションですれ違っても「おはよう」すら言わない俺に何の用なんだ?
いや、まあ…言わないっつか気まずくて言えなくて一方的に避けてんのは俺のほうかもしんねえけどさ。
ナゼかがっちがちに(多分緊張?で)固まった篠は、「あ、あの」と震える声を出した。
「俺今度新入生代表やるんです」
「へ、へえ。……そうなんだ」
ああ気まずい。
もう早く帰ってくんねえかな。
「なので、学校で会ったらよろしくお願いします」
「あーよろしくな。
って、は?」
「えっ?」
「えっ?」
「な、何か…?」
「がっ、こう?」
川の流れのようにサラーっと流したけど、とても流せる内容じゃなかった。
おいおいおいおい、今こいつなんてった?
俺耳おかしくなったかな、と早まる鼓動で「俺の学校とお前の行くとこ提携でもしてんの…?」ってとりあえず聞く。
だってほら、そう、えっと…ウチの高校イベント超好きだし色んな学校との合同祭とかよくやるし。
そーだよ、そんな身を縮まらせてビクつくようなこと全然、
「提携なんかしてません」
「あっそーなんだ、そうだよな。
お前がわざわざ俺の、……えっ?」
「り、理数科なんです。先輩と…同じ」
「俺と……同じ……」
「俺先輩と同じ高校に入ったんです!」
「はああああ!?」
このフロア全部に聞こえたんじゃないかってくらいの大声が出た。
でもでも嘘だろ、冗談、つか、
「はああああ!?」
「にっ二年間よろしくお願いしますっ」
「いやいや、えっ!?
マジで!? ガチで!? 俺の高校!?」
「マジにガチです。毎朝一緒に登校したいです」
「サラッと何言ってんだ!」
「俺先輩のこと好きなんです! 超!」
「うわー!! ほんとになんか言い出した!! お前こんな罰ゲーム仕掛ける奴と友達なんだったら今すぐ絶交しろ!!」
「罰ゲームじゃないよ!」
「億倍悪いわバカ!!」
「愛してます!」
「あっ……!?」
「大好きなんです!」
「だっ……」
何の前触れもなくスコールみたいに浴びせられた唐突な告白に、口をぱくぱく、狼狽える。
何言ってんだよバカってフランクに笑いあえる仲じゃねえし(言っても多分『何言ッテンダヨバカ』ってなって色々危ない)、
何これスルーしていい内容? 大丈夫なやつ?
誰 か 助 言 し て く れ !
とにかくよろしくお願いします、とかなんとか言い捨てて篠は自分ちにマッハで戻って(っつっても隣だけど)バタンと玄関を閉めやがった。
ドアを開けたまま呆然とする。
自慢じゃないけど男に告白されたことなんかない。
これは…何か、新手の嫌がらせとか、そういう…?
あくまで『告白』を否定しようとした俺だけど、その否定はたった5日で打ち砕かれた。
「おはよ、夏目先輩」
「……はよ」
うわあ、マジなんだ。
と、その時俺は思ったわけで。
***
「おはよ、先輩」
「おー。おはよ」
自分の家の玄関ドアに寄りかかった直後、となりの扉が開いて後輩がひょっこり顔を出した。
「待った?」って聞かれて「今出たとこ」と答える。
差し出された手を握りながら、あの春休みのことを思い出してちょっとぼーっとしてたら「先輩?」って声がかかった。
「どうかした?」
「んー…入学式の何日か前にお前に『好きの安売り』されたの思い出した」
「えっ何それ俺そんなことしてないよ!」
しらばっくれる気かこいつ。
「いや、した。たいして好きでもねえのに『愛してます』だの『大好きです』だの」
「えっちょっ、あの、もっとそれ言ってもらってもいいですか」
「はあ!? 話聞いてる!?」
「聞いてる聞いてる、聞くので!」
「聞いてねえええ!!」
毎朝の登校は一緒に行こうと決めて、
その一日目。
「ねえ先輩、言ってよー!」
「朝っぱらから言わせんなよ!」
「いいじゃん! ケチ!」
「全然よくねえしケチでもねえよ!」
マンションを出るまでは手を繋ぐ。
「先輩の口から聞きたいのになあーひどいなあー俺はこんなに大好きなのに、あ、これって俺だけなのかなあー悲しいなあ」
「やめろその棒読みほんとやめろ」
「あーあー朝からすっごい幸せだと思ったのになあー」
「うっぜえ! じゃあもうこっち来いよ」
「えっ? わっ、」
繋いだ手をぎゅっと引っ張って、非常口の影に隠れる。
「何先輩、」と言いかけるその口を俺ので塞いだ。
「んっ……!」
「っ…はい終わり。学校行くぞ」
「やだ」
「は!?」
「もっと」
「ちょっ!? んん!」
キスは一回、もしくは二回。
絡めた指をきつく握って、離れなきゃいいな、なんて思う。
「っは、千明…っ今日、だけだからな」
「えっ?」
「好きだ」
今日だけだからって、俺これまでに何回こいつに言ってんだろう。
…まあいいか。
最後にもう一度チュ、と軽いキスをしてエレベーターに向かったら、
「あっ」とか言って千明が後から着いてきた。
「せっ、先輩!
学校行かないでイチャイチャしません!?」
「バーカするかよ。俺は勉強の方が好きなの」
「ケチ!」
「だからケチじゃねえっつってんだろ!」
目と目が合ったら喜ぶ後輩。
手を繋いだら嬉しくて、キスをしたら幸せだ。
だからずっと一緒に居たいな、という気持ちを込めて、となりに住む後輩の、
違った、となりではにかむ恋人の、
名前を呼んだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
36 / 37