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金の稼ぎかた 1にしおりをはさみました!
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金の稼ぎかた 1
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「…あぁっ…んっ…」
「…くっ…白夜っ…」
薄暗い室内。
ベッドサイドのランプがオレンジ色に光る。
どこにでもある、ラブホテルの一室。
白いパリパリのシーツがクシャクシャに乱れ、ローションなのか、白濁なのか…液体がそこらへんに飛び散っていた。
「っ…イクぞっ!」
バックの状態で後ろをえぐられる。
グラグラと揺れる視界。
強さとスピードを増し、ただ己の快楽のためだけに動く男。
「…っあぁっ!」
それでも悦ぶ、自分の体があさましい。
体は正直だ。
舐められれば反応をし、後ろを擦られれば快感が体を貫く。
この行為の中にあるのは、金だけ。
愛情のひとかけらもないこの行為。
渇く。
ココロが──渇く。
体は熱くなる。
だけど。
心は冷たくなる一方だ。
「ねぇ、また誘ってもいい?次の金曜とか」
行為が終わり、シャワーを浴びて出てきた男をちらっと見る。
こうやって行為のあとすぐに次を作りたがる男は、大抵独占欲を発揮してくる。
そのうち、¨俺以外の男とは寝るな¨とか言いだしそうだな。
「気が向いたらな」
なんて言葉では言いつつも、¨二度と相手にしねぇよ¨と心の中で思う。
ベッドの下に投げられた服をつかみ身につけていると、男の視線を感じた。
「シャワーは?」
「いらねぇ。帰る」
行為の後、シャワーは浴びない。
タオルで軽く体を拭くだけだ。
キレイになんて、ならなくていい。
家まで送るという男に、いらねぇと背を向けて歩く。
携帯で時間を確認すると、午前1時。
少し冷たい風が、肌をなでる。
3月も半ばを過ぎ、昼間は春特有の暖かい日差しが降り注ぐが、夜はまだ少し肌寒い。
特に今日は風が冷たかった。
立ち止まり、開けっ放しだったパーカーのジッパーを上げ、空を見上げる。
雲が月を覆い隠し、月の光りが届かない、寂しさが漂う夜。
街灯もない道。
パーカーのポケットに手を突っ込むと、カサ…と紙がすれる音がした。
客から受け取った三万円。
それが今日の稼ぎ。
ひとつため息をこぼし、再び歩き出す。
家は駅ひとつぶん向こう。
1時間ほど歩けば着くだろう。
月の光りさえ届かない夜。
自分を飲み込んでしまいそうな、闇。
一歩一歩、家に向かって足を進めた。
都会でもなく、田舎でもない、静かな場所。
その中の、ごく普通の5階建てのコンクリート造りのアパートの階段を上がる。
302号のプレートが掛けられた玄関の扉を開け、中に入る。
シン…と静まり帰る、暗い家の中。
ここに住んでいるのは、俺一人。
真っ先に風呂に向かい、頭から熱いシャワーを浴びる。
念入りに体を洗い、泡を流す。
キュッとシャワーを止め、浴室から出てバスタオルで体を拭いていく。
ふと、洗面所の鏡に映る自分を見つめた。
肩下まである銀色の髪。
翡翠色をしたアーモンド形の目。
色白の肌。
中性的な顔立ち。
170センチの低くもなく、高くもない身長。
華奢ながらも、程よくついた筋肉。
母に瓜二つの顔は、男としてはあまり嬉しいものではないのかもしれない。
『夜に映える銀髪に、翡翠の瞳。お前は男を狂わせる』
蘇る声、そして顔。
「…チッ…」
鏡から目を逸らし、頭に浮かんだものを追い払うように髪をガシガシと乱暴に拭く。
台所に入り明かりを点け、冷蔵庫から2リットルのミネラルウォーターを取り、そのまま口をつけて飲んだ。
自分の容姿が武器になることを、俺は知ってる。
だからこそ、相手に股を開き、腰を振り、喘ぎ声を漏らし、そうやって金を稼ぐ。
なりふりなんて、構っていられない。
俺には金が必要、なんだから。
昼過ぎまで眠り、一度軽く食事をとると布団の中で夕方までダラダラと過ごす。
ようやく布団から起き上がり、冷蔵庫から野菜ジュースを取り出し、そのまま飲む。
シャワーを軽く浴び、着替える。
こうやって夕方までダラダラと過ごすことが出来るのも、あとわずか。
休みの今が稼ぎどきだ。今のうちに、ある程度稼いでおかないと。
今日の相手を探しに街へと向かう。
携帯で時刻を確認すると、9時を過ぎたあたり。
人込みをすり抜け、目的の場所へと歩いていると、いくつもの視線を感じた。
すれ違う人たちの視線が刺さるのは、いつものこと。
日本人には珍しい容姿は、いい意味でも悪い意味でも視線を集める。
いちいち気にはしていられない。昔から人に見られることに慣れていた俺は、ただ黙々と目的地まで向かった。
陽も落ち、夜が訪れているはずなのに、この街は暗闇に落ちることはない。
ネオンが光り輝き、喧騒に包まれる街。
目的地である開けた広場に着き、定位置である木のベンチに座ること、数分。
「お兄さん、お暇なら遊ぼうよぉ」
猫なで声が横から響いた。香水の匂いが鼻につく。
チラリと横を見やると、笑みを浮かべながらじっとこっちを見る女。
マスカラを塗りたくった睫毛がバサバサと揺れた。
こうやって逆ナンされることもしばしばあるが、俺は相手にせず無視を決め込む。
そうしていると、だいたい女は諦めて帰っていく。
「なによぉ、感じわるーい!」
だいたい似たようなセリフを残してから。
「君、可愛いね。遊びに行かない?」
こうやって男がナンパしてくることも、しょっちゅうある。
男の場合は俺を男と認識しているのか、それとも女と勘違いしている場合がたまにあるため、俺はあえて低い声を出す。
「行かねぇ」
これで男とわかり、なんだよ男かよ…と目の前から去る奴が半数。
え、男?と驚きつつも、男でもいい、と粘る奴少数。
「君みたいな綺麗な男の子は初めてだよ」
残りは、今目の前にいる奴みたいに男と分かっていながらナンパをしてくる奴。
俺は男を相手にしているからといって、誰でもいいわけじゃない。
俺を誘うには、ルールがある。
「他に言うことねぇの?」
と返せば、男はえ?と疑問顔。
そして再び笑顔になり、求めていない答えが返ってきた。
「あぁ、なに?
もっと褒めて口説けばいい?」
──コイツはアウトだな。
だったら一々相手にしてられるか。
「失せろ。」
何か薄っぺらい言葉を並べ始めたそいつチラリと見て、一言。
それでも粘ろうとする男を少し殺気を込めて睨みつけ、再び口を開く。
「死にてぇか。失せろ」
俺から何かを感じとったのか、顔色を一気に悪くし、慌てて去る男から地面に視線を落とす。
髪をかきあげベンチにもたれかかり目を閉じ、ひとつため息をもらすと、目の前に気配を感じた。
「Show nights with ¨the midnight sun¨.」
─¨白夜¨を見せてくれ─
耳に届いたのは、甘く響くテノールボイス。
その言葉に目を開く。
ルール1。
俺に声をかけるには、合言葉が必要なんだ。
目の前に立つ人物を見上げた。
少し短めの髪を無造作に整えた黒髪に、おそらく180センチは超えるであろう高身長。
年齢は24、5程だろうか──落ち着いた雰囲気のある、かなり顔の整った男が俺を見下ろしている。
意思の強そうな、印象的な黒い瞳。
その瞳に吸い込まれそうな気がして、俺は思わず目を反らした。
「The reward?」
─見返りは?─
俺の言葉に、ポンっと財布が俺の足に乗っかった。
ルール2。
事前に財布を渡し、金があることを見せること。
中身を確認すると、数十枚の諭吉が入っていた。
─決まり、だ。
「OK.I show it.」
─いいぜ。見せてやるよ─
財布を男に返し俺が立ち上がると、男は身を翻し、歩いていく。
俺はその後をただついていくだけだ。
ルール3。
ヤる場所はホテルのみ。ホテル代も払うこと。
少し歩くと、その男は角に停めてある黒塗りの大型バイク近づいて行った。
バイクにまたがり、乗れ、と言わんばかりに、顎をクイっと後ろにやる。
促されるままに、男の後ろに乗り込むと、男は俺の手を取った。
「つかまってろ」
そう言って俺の手を腰に回させる。
服の上からでも分かる、固い腹筋。
なかなかいい体してんじゃん、なんて考えていたら、急にバイクが走り出した。
始めはただ腕を回していただけだったのだが、思いのほか居心地のいい背中に頭を預け、目を閉じていた俺。
15分ほど走っただろうか、スピードを落とし始めた感覚がした。
ハッとして、閉じていた目を開ける。
何してんだ、俺は……。
頭を振り、改めて周囲に目を走らせた俺は街の雰囲気に顔をしかめる。
「…?」
ここら返一帯の、ラブホテルの場所は把握しているつもりだ。
それに、行動範囲の広い俺はどんな場所でも帰れるぐらいの土地勘がある。
ここは──。
「…おい。どこに行くつもりだ」
「ホテルに決まってんだろ」
ホテル、と答えるあたりルールを知っているんだろう。
でもココは、ラブホテルなんてあるような淫猥な街じゃない。
ネオンの光りではなく、優しいオレンジ色の街灯が辺りを照らし、どちらかといえば洗練されたような、高級ホテルがある感じの街だ。
こんな場所にラブホテルなんか、ない。ーーなんで、ここに。
頭に疑問符を浮かべていると、建物の中に入っていくバイク。
「……は?」
言葉もなく、唖然とする俺。おい…ここって…
「降りろ」
エンジンを切り、後ろを振り返り俺を見てくる男。
意味がわからないまま、とりあえず地面に足をつける。
「行くぞ」
目の前を歩き始めた男に、俺は慌てて声をかけた。
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