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我慢にしおりをはさみました!
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我慢
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そんな龍希のもとへ飛び込んできたのは
彼女が帰る事を知らせる貴仁の声だった。
最愛の人の口がその女性の名前を呼び、再び彼女から差し伸べられた手を握る。
───あれは、挨拶だ。
龍希は、まるで用意していたかのように、その言葉を己に言い聞かせてはみたが、
ドロドロと歪み、むせかえる感情にいよいよ吐き気をもよおした
───何だよ、触るなよ。その手に、そんなに簡単に触るな。
心の中で龍希はいよいよそれを思った。
そして、唇を噛み締めたなら次はその手が震えた。
───その手はオレのだ。……オレがやっと手にしたたった1つの愛なんだ。……それを、異性だってだけで触れるのを許されるなんてズルすぎる……。
ずっと禁じてきた思考が溢れて止まらなくなり、今にも声に出して叫びそうだ。
───だって、あんたは知らないだろ?この人の好みの珈琲、濃さも温度も、出すタイミングもさ、あんたは知らないじゃないかよ……
仕事中は濃いめ、今日は休みだからミルク入り……
自分は貴仁の事を彼女よりも知っていると、それは、まるで子供が張り合うような、そんな感情。
自分の幼稚な反抗に惨めさは増す。
悔しく、腹立たしく、悲しく………羨ましい。
そうだ、羨ましい。
羨ましい!羨ましい!羨ましい!
頭はすでにごちゃごちゃで、コントロール出来なくなっている状態に危機感を感じるものの、それを制御する事はもう出来ない。
熱を帯びた感情は止まずに
感じる熱さは表現に困る類のものであり、
震えた手を握りしめたならば、次は足が震えた。
───……知らないくせに、何も知らないくせに……オレには、その手しか無いんだって事も知らないくせに。
オレは、どんなに求め続けても、まだその手しか知らないのに……
吐き出す呪詛は終わりなく、
胸の真ん中はこんなにも熱を帯びているのに、指の先は凍えるように冷たく感じた。
───……あんたなんか、どうせその気になれば、手の次くらい、簡単に手に入れられるんだろ?
震えた足がぐっと力を持ち、今にも女性へ詰め寄りそうになった。
それを、危機感として脳が感知したのだろうか?
まさに動こうとしたそれに、龍希はハッと気付く事が出来た。
それはやってはいけない。
彼女に罪は何もない。
悔しいけれど、有るとするならば、それは男である己にこそ有るのではないか?
その現実にいよいよ気付いてしまった絶望たるや、想定を遥かに超えていた。
「龍希、どうしたんだ、挨拶もしないで。」
そんな絶望を知った龍希のところへ、彼女を見送り戻った貴仁が、そんな事を言ったのだから、
龍希の我慢は全て、我慢を超えてしまったのだ。
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