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”5” 王子と眠り猫 ‐2にしおりをはさみました!
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”5” 王子と眠り猫 ‐2
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ふっと。
背中に視線を感じて、振り返る。
健が目覚めて、俺を見つめてくれたのかと、すごく、期待して振り返った先には、
酸素の管をつけ、仰臥する健の寝顔の横顔しか見えない。
大学病院で最も利用頻度の低い個室なここは、ぶっちゃけ、「出る」ので有名だったりする。
そっち系の気配かな、と納得させ、がっかりしつつ、ちょっとびびった。
親父がツテを総動員で働きかけて、なんとか用意してもらった個室だが、猶予期限は来週中。
病床数の慢性的に不足する大学病院は、学生の傷害事件で、意識が戻らない健に
原因が不明のままで長期になる場合は、転院を暗に勧めてくるから、
親父からは、実家で経営する俺の田舎の病院なら個室を用意して置くと連絡があった。
授業も始まって、4日目。
まだ、学内に混乱はあるけれど、通常に戻って来てて、講義は日一日と、受けない分だけ
高度な専門分野に入っていると、様子を見に来た、横山たちが言っていた。
俺には、何より、健の方が優先だから、迷い無く、この3日間、いつ健が目覚めてもいいように
側にいる以外の選択肢なんか無かったが、親父や周囲が何か言いたげな素振りをする。
目覚めない・・・かもしれない。
そう、言いたいのだろうか、皆は。
睡眠不足で気を張り続けてるから、弱気に心を圧迫されて、負けそうになる。
今日は、留華が、橘兄弟揃って、見舞に来たいと言ってきた日だ。
一人では怖くて会いに行けなくて、と、悩んでいたのだそうだが、
歌舞伎の若手注目株で密かに有名人になった大名跡市村家の養子に入ってる、実弟に
ケツを叩かれて、やってくることになった。
長兄の浹(とおる)さんは、俺の大学の先輩で、なんと、健の義兄、芙柚の親友だ。
昨日までで、丹羽家の家族は、芙柚以外全員が、健に面会に来た。
代わりに来るんだろって、深読みしないではいられない。
護れなかったんだなと、無言でプレッシャーかけられてるみたいで、キツイ。
でも、留華の心情を思えば、来るなとは言えなかった。
向かいの病棟しか見えない、無機質な風景だけれど。窓の側に立って、眠気を覚まそうと、少し開いた。
桜は終われども、外は、春の盛りなのに。
俺の春を共に謳歌したい伴侶は、眠り続けている。
「春は眠いよね」
そんなことを言って、俺に凭れて、お気に入りのバルコニーのベンチで
うとうとしてる健と過ごしたのは、ほんの数日前の出来事なのに。
「眠っててもいいから、一度、目を覚まして。健」
おはようのキスを待ってるなら、いくらでもあげるから。
そっと、ふれた柔らかい桜の花の様に可憐なピンクの唇に、俺の涙の雫が落ちた。
◇◇◇
「ダメ!絶対。帰って寝なきゃ、どうするの、健ちゃんが起きたら、そんな顔してちゃ悲しむ!!」
出迎えた俺を、開口一番、旧姓、橘鑑(たちばな かん)、現、市村鑑が、生意気に言い放つ。
浹さんも、頷いて、
「家に送ろう。君が仮眠の間は、オレ達で見てる、責任持って。頼めるな?」
「勿論だよ!面会時間ギリギリまで寝て来て!いいよね?留華ちゃん」
留華は、ずっと、貝のように黙りこくって、健の側に居る。小さく頷いた。
せっかくの好意を無下にもできないし、風呂と着替えをしたかったから甘えることにした。
事件の後、心療内科を受診した留華も、PTSDの症状が出てくる可能性が高いらしい。
まだ、事後の混乱と緊張で、どう出るかは未知だと、帰る道すがら、浹さんが車中で聞かせてくれた。
「浹さんは、芙柚に、何か言われて来たんですよね」
「どうして、そう思ったの?」
「・・・タイミングがいい気がしたんです。あまりに、浹さんまで来てくれたってことが」
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