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66.俺の苦手なもの
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「なぁ……本当についてくる気?」
俺の後ろを数歩遅れて歩く彼女に訊ねる。一応は自分が高校生だということに気を使っているのか、それともスマホが気になるだけなのか。とにかく、こちらを全く見ずに返事は返ってきた。
「当たり前。ここまで来て帰るわけないし」
「そのわけがあってほしいから聞いたのに」
「先生、男らしくないよ。顔はそこそこ良いのに」
「男らしくなくてもいいから帰ってくれよ」
彼女は塾の生徒でまだ高校生で、それから繊細な年頃で魚住に拒否られて傷ついていて。何個か理由をあげてみるけれど、もう我慢はできそうにない。
「だからさぁ!本当にいい加減にしてくれよ!」
「うわっ、急にキレないでよ。びっくりするじゃん。っていうかついてこられて困るなら、先生が私を撒けばいいだけの話でしょ」
「それができたら苦労はしない!お前が陸上部で長距離走の記録持ってるとか聞いてないし、俺が勝てるわけないだろ!」
「記録を持ってたが正しいけどねー。あと、彼女でもない女の子にお前呼びはモラハラだよ、先生」
「全然元気じゃねぇかよ……どこが落ち込んでるんだよ」
テンポよく返ってくる返事に、心配して損した気分だ。ここまで元気なら、もっと強く言っても大丈夫だろう。そう思った俺は、次は何を言って諦めさせるか考える。
強過ぎず、けれど優し過ぎずのことを言いながらも、俺は内心焦っていた。その理由は、会わせるのは無理だと言い続ければそのうち諦めるだろうと思ってからだ。
けれど行動力が半端ない女子高生は予想外にしつこくて、全然諦めてくれない。
「これ以上ついてきたら親に言うからな。俺はおま……君と俺の彼女を会わせるつもりはない」
どれだけ頼まれても、どこまでついてこられても俺はこの子と『俺の彼女』を会わせることはできない。俺が会わせることができるのは、顔面偏差値が頂点を突き破った頭のおかしな男とだけだ。
「とにかくもう帰れ。こんな時間に高校生が外にいるなんて非常識だろ」
「でも先生も高校生と大して変わらないじゃん。黙ってればイけるよ」
「変わる!俺はもう大人だから!!」
「はいはい。大人なら人前で大声出さないでよ」
ああ言えばこう言うどころか、こう言ってそう言う。2倍以上で返ってくる返事に俺の限界は越えていて、相手が未成年じゃなければ怒鳴ってる。
怒れない鬱憤が溜まる。それは1日の疲れと合わさって、俺のイライラを倍増させた。
「本当にいい加減にしろよな。そんなだから魚住に相手にされないんだろ……見た目がどんなでも、中身が子供なんだよ」
言った瞬間に気づいた。これは言っちゃダメな言葉だって。その証拠にさっきまで勢いのよかった彼女が、泣きそうな顔に変わる。
「あ……いや、今のは」
なんてフォローすればいい?こういう時は何て言えばいい?
俺は拓海みたいに場を盛り上げる言葉を知らない。幸みたいに優しくもできないし、リカちゃんみたいに喜ばせる方法もない。
目の前には明らかに傷ついた顔。それはほかの誰でもなく俺の所為で。それなのに俺は何も言えずに、狼狽えながら見つめることしかできなくて、そして。
「慧くん」
こんな時に1番来てほしくないやつが来た。
背後からかけられた声は、最も聞きたくない声だ。
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