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prologue2
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20〇〇年、4月。
私立望月大学の体育館では入学式が執り行われていた。
4学部8専攻で構成されるこの大学は、各学部、専攻での勉学をより良いものにする為、非常に広大な面積を誇っている。
そんなマンモス大学内の中心に、これまた巨大な体育館がある。部活動にも力を入れている為、各種部室やジムトレーニング専用ルーム等も設けているのだそうだ。
「~~~であるため、本日より入学された新入生のみなさんには、充実した日々を過ごしていただきたく~~~」
学長のありがたくもつまらない話を拝聴する振りをして、オレー宮野 一哉(みやの かずや)ーは入学した大学について思いを巡らす。
この大学には寮もあり、寮内設備も充実している。自室は1DKと広く、ネット環境も完備。おまけに寮内にコンビニ、学生食堂、寮の目の前にはスーパーもある。自宅や地元が遠い学生からすれば、この設備の充実さは非常に嬉しいものだった。
「それでは、新入生代表による挨拶を~~~~」
ようやく新入生挨拶か、と思った。たしか、これが終われば入学式は終了のはず。事前に受け取っていたスケジュールを頭の中で読み返しながら、のこり10分もない時間をまた瞑想する。
・・・思えば、この大学を選んだのは正解だったのかもしれない。マンモス大学であるが故に、自分という存在をいくらでも隠すことができる。そして地元から離れ寮生活にしたのも、過去の自分を知る存在がいないので心が軽い。あとは4年間、何事もなくしっかり勉強していければ、それでいい・・・
そんなことを思っていると、新入生代表の挨拶も終わり、入学式の閉会も告げられた。
ぞろぞろと新入生が体育館から退場するところで、テンションの高い声が響いてくる。
「サッカー部へぜひ!マネージャーも選手も随時募集してるよ!!」
「演劇部で新しい自分を見つけてみませんかーー!!」
「野球部で大学野球に出ようぜ!!」
「バスケ部員募集してまーーす!!背の高いそこの新入生!!ぜひウチに入ってくれない?!?!」
などなど。
体育館を一歩出ればそこは、部活勧誘の激戦区でした。
新入生は、大きく後ずさるか、興味をもって話を聞きに行くか、はたまた即座に仮入届けを書くか、3タイプに分かれたようだった。
ちなみにオレはどれでもなく、ひとまずこの区域を抜け出す方法を考えていた。
(めんどくせー・・・どっか抜け道とかねーの・・・?)
生粋のコミュ障で、協調性が皆無であることは自覚しているので、部活動などもってのほか。即刻この場所を離れて寮に戻りたい。
うつむき加減で思案していた為、目の前にいた人物にぶつかってしまった。
「あ、す、すいません・・・」
反射的に謝りと同時に顔を上げる。そしてそのまま視線だけ上に上がっていく。
長身のでかい男が、そこにいてこちらを見下ろしていた。
「こっちこそごめんなさい、怪我してないですか?」
そう言って長身は腰を屈める。
オレの身長が170ちょうど。それを見下ろしてたから・・・ざっと180以上はあるはず。
人懐っこいような顔に心配そうな表情をつけて、こちらを見ている。
「あ、あーダイジョウブですお構いなく。」
それだけ言うと、オレはすぐに彼から目線は外し、寮へ戻る道を模索し始める。
見ず知らずの人と会話を続けること。それはオレにとって苦行だ。
しかし、寮への道、人の少ない場所が見ても考えても浮かばない。
そんなオレのことをどう受け取ったのか、もしくは空気が読めないのか、彼は声をかけてくる。
「大丈夫ならよかった。同じ新入生だよね?俺の名前は遠山謙悟(とおやまけんご)。心理学部なんだー、よろしく。」
そう言って片手を差し出してくる。その手をオレは見つめる。
「・・・・えっとー・・・・」
「あ、もしかして握手は苦手だった?」
「苦手っていうか・・・・なんで握手?」
「えっ?」
どうせ一瞬の出会いなんだし、そうそう会うことないだろうに、なんで友好の証みたいに握手するの?っていう言葉は飲み込んだ。代わりに無言で彼ー遠山ーを見上げる。
遠山は、少し間をあけてから手を引っ込めた。
正直、早く寮へ帰りたい自分としては、握手するよりも帰る為の部活動激戦区からの脱出方法を思いつきたいのだった。
「あのさ・・・もしかして寮に帰りたいの?」
少し遠慮がちな遠山の言葉に三度、彼を見上げる。
「そうしたい・・けど、部活の勧誘が、じゃ、邪魔で・・・」
人と話すの不慣れすぎて噛みそうだしどもってる!とか思いながらもなんとか言葉を紡ぐ。
「それなら、少し待ってて。」
それだけ言うと、遠山は人混みに消えていく。
「・・・・・・・・・・は?」
おもわず声が漏れる。
なんで待たないといけないの?とか、あいつも寮なの?とか、唖然としながらも、その場から動けない。
(穏便に影を潜めて卒業するならここは一旦待って一緒に帰る方が目立たないし大丈夫だよなってか少しってどんだけ待たないといけないんだよこれならいっそ一人で帰りたいわあーでもそれしたら波風立ちそうで嫌だしかといって初対面の奴と寮までとかオレにはハードル高すぎるんですけどどしたらい「お待たせー」
「うわっ!!!」
思考がドツボにはまったせいか、遠山が戻ってきたことに気づかず、相当驚いてしまった。
そんなオレに向こうも驚いたのか、一瞬ビクッとなったが、すぐに淡い笑顔を取り戻した。
「俺も寮生活だし、この人混み抜けるなら一緒に抜けよう」
「え、で、でもそ、それはいき、いきなりしょ、初対面のひ、人にそ、そんな・・・・」
「なんでそんなにどもってんの?」
笑いながら言われて、赤面してしまう。
人と話すと、いつもこうだ。だから、なるべく一人がいい。
ただ、と冷静に考える。
この人混み、おそらく大学教員か部活動勧誘で仮入部とか一定数捕まえないと減らないだろう。そこまで待つつもりは、毛頭ない。
しかし、自分の体格では、4学部8専攻の1000人以上の人数の波を乗り切れる自信がない。
赤面しつつも、熟考の末、
「・・・・・・よろしく、お、お願いしま、す・・・・」
「じゃ、行こう」
遠山を先頭に、寮への道を歩いていく。
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