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外伝 【2017 バレンタイン・ストーリー】(シローside)
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ソファーでくつろいでいた主が、不意に喉の奥で笑った。
「どうかしたのですか?」
問えば、主が膝の上に広げていた本を閉じて、斜めにこちらを見た。
「この本に書いてあったンだが、異国には恋人たちのためのバレンタインって風習があるんだと」
「バレンタイン……ですか?」
恋人たち、という言葉がやけにくすぐったくて、思わず視線を逃した。
「……ンだよ、つれねェなァ」
腕を引かれ、背後から抱きしめられた。
ふわりと濃く艶やかな花の香りが漂う。
「その国ではバレンタインがくると、オンナがオトコにチョコレートを送るんだと。……オンナが愛するオトコに、だぜ?」
肉厚の舌がねっとりと首筋をはう。
「……当然オマエも、くれるよなァ?」
「……甘いものは、苦手でしょうに」
「オマエが作ったモンは別格だ。オレ好みの甘さ控え目で頼むぜ?」
「……っ、ですが、チョコレートの原料であるカカオは、薬にも使われる贅沢品です。おいそれと手に入るものでは……」
「それなら、ジンのアホウが先日大量に仕入れたはずだ。ついでに言やァ、レシピもあるってよ」
どんどん退路をふさがれていく。
オレが好きなら、作れ。
こうして堂々、態度に出して迫られるのが、いかんせん、嫌いではなかったりする。
剥き出しの独占欲やわがままを見せつけられるたびに、底なし沼に落ちるように、より深く惹かれ、たまらなく好きだと自覚させられた。
「作って……くれるよなァ?」
濡れた声でささやかれ、甘えられたら、もうダメだ。
どんなわがままだって、叶えたくなる。
「わかりましたから……っ、首や耳を…舐めないでください……っ」
「……バカが。このカラダは全部、オレのモンだろ? どこをどう舐めようが、脱がせようが、勝手だろーが」
加速度的に甘さを増し、濡れていく声に、気が遠くなりそうになる。
降りてきた指先に不意に下腹をさすられ、ビクリと身体がはねた。
静かな部屋に、クチュリ……と濡れた音が響く。
カァッと首筋が熱を持ち、主は喉の奥で笑うと熱を吸うようにその部分に口づけを落としてくる。
「……っ」
「唇、噛み締めンな。……声が聞きてェ」
「……無理を、言わないでください……っ」
「オトコってのは、不思議と拒まれるほど燃える。無自覚に煽ってるって、……いいかげん気づけ」
指先で焦らすように下肢をなぶりながら、己の欲望を双丘の狭間に押しつけてくる。
「はぁ……っ」
秘められた入り口が震え、疼き、止まらなくなる。
毒に侵されたように、全身を甘い痺れが駆け抜けた。
「……放ったか」
さするように撫でられ、一度昂りを押しつけられたくらいで限界を迎えるなど、ありえない。
日に日に感度を増し、淫らに開かれていく身体が、怖くてたまらなかった。
「ンと、たまンねェ。……どんだけオレに惚れてンだか」
羞恥心に震え、縮こまる身体を、背後から抱きしめながら、主がつぶやく。
胸をつかまれたように、震えた。
熱い塊が喉元を突き抜けていく。
何も言葉にならない。
嬉しくて……幸せ過ぎて。
認めがたい己の変化は、すべて主への恋心ゆえだとわかってもらえるのなら。
……それでいい。
それだけでいい。
「気持ち悪ィだろ。……全部脱いじまえよ」
「……っ」
「なに今さら、恥ずかしがってンだ。……オマエのカラダのどこもかしこも、見て触るどころか、隅々まで全部舐めてやったろ……?」
「な…っ」
「奥の奥まで暴いて、味わって、オレのモンだって印をつけた。……忘れてンなら、初めっから教育し直してやろうか?」
黒曜石の瞳の奥に、獲物を喰らう獣の鋭さが過ぎる。
「なァ……?」
だが、大振りの唇からこぼれ落ちる毒のように甘い声に酔わされ、脳は正確な判断を下せない。
喰われる……?
それでもいい。
この人の血となり、肉となれるなら。
自分の生に何の後悔もありはしない。
「……どうぞ」
うっとりと目を閉じた。
「主のお好きなように……」
それが自分の願いのすべてだとばかりに告げれば、チッと舌打ちされ、ソファーに乱暴に押し倒された。
首筋に牙が擦れ、あやすように舐められたかと思うと、ツプ……と貫かれる感覚がした。
主の牙は太く白く立派で、かなりの痛みを感じてもいいはずなのに、実際は遠く甘やかな疼きが襲ってくるばかりだ。
不思議に思い問うた際、闇の種族の唾液には皮膚感覚を麻痺させる媚薬の成分が含まれていると聞き、ひどく納得させられたものだ。
一端ちぅ……と血を吸われてしまえば、ほどけ、崩れ、溶かされていく。
ろくな準備もなく押し入ってこられても、身体は甘く震えるばかりだ。
抽送が繰り返されるたびに、達してしまいそうなほど深い快感が襲ってくる。
「チョコレートは固めるなよ……?」
朦朧とする意識をつなぎ留めながら、やっとのことでなぜ……と目で問えば、
「……その方がカラダに塗って、楽しめンだろ?」
嬲るように笑われた。
「……カラダの隅々まで、舐めてやるよ」
毒のように甘い声でささやかれ、奥を穿たれ、絶え入るように目を閉じた。
また終わらない夜が始まろうとしている。
溢れるほどに注がれ、気を失うまで追い詰められても。
自分はきっと、目覚めるなり幸せの余韻でもある重い腰を引きずりながら、必死に台所に立つのだろう。
主の笑顔を思い浮かべながら、未知なる菓子作りに挑む。
主好みの、ほろ苦い甘さのチョコレートを目指して。
固めるか、やわらかく仕上げるかで迷って、結局は願いを聞き届けてしまう気がして、気が遠くなるほどの羞恥に喘いだ。
「……ンな、締めンな……っ」
出ちまう……と息を詰めた主が、不意に最奥で弾けた。
「……っ」
何度出されても、けして慣れない。
震えるほどに嬉しくて、感動のあまり泣きたくなる。
ドクドクと流れ込んでくるのは、主の命そのものだ。
一滴もこぼすまいと締めつけ、終わるのが嫌で、再び強請るように、自ら腰を揺らした。
口づけが深くなる。
奥にいる主が、しだいに硬さを増していく。
「……ンとにオマエとだと、終わりが見えねェ……」
抱き潰しちまう、とつぶやかれ、それでもいいと抱きしめ返した。
「もし、どうしても起き上がれない時は、チョコレートは主が作ってくださいね……?」
強請れば、くっくと笑われた。
「結局、食いてェんだろ? つーか、塗りたくられて、舐められてェのか」
「違います……!」
「遠慮すンな。……かわいい番の願いだ、聞き届けてやるよ」
「ですから……っ」
「任せとけって」
主は自身たっぷりに、言ってのけたのだが。
翌日台所が大惨事になったことは、言うまでもない。
もはや二度と主に料理はさせまいと固く誓い、怒りに震えるうちにも、組み敷かれ、衣服を剥ぎ取られ、チョコレートを塗りたくられた。
甘い狂宴は厚い遮光カーテンに守られた屋敷内で、実に一昼夜に渡り続いたという。
【2017 バレンタイン・ストーリー FIN】
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