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弟子
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今日は胃腸薬がよく売れたな
春は皆陽気になって
花見だ祭りだって呑んだくれるから
ルディ「...まだ寝てんのか」
奥の部屋では毛布をグルグルに巻き付けたデュークが黒革のソファに横たわっていた
やはり昨日の夜はよく眠れてなかったみたいだな
ルディ「おい起きろ、熱は?」
デューク「あ、ルディさん...お疲れ様です...」
デュークの額に手を当てる
ルディ「大丈夫そうだな」
デューク「はい、おかげさまで…って、ちょっ、待っ」
毛布から引き剥がして出口に向かわそうと背中を押すと、デュークは慌てて抵抗する
ルディ「何だよ、熱下がったんだから帰れよ」
デューク「ええっ店に入れてくれたのってそういう意味じゃなかったんですか!?」
ルディ「そういう意味ってどういう意味だよ」
デューク「てっきり、弟子OKってことかと...」
都合のいい頭だな
そんなわけがあるか
ルディ「だからそういうの無理だって」
デューク「お願いですってば...僕何でもします、店番でもなんでも…」
ルディ「しつこいぞ、諦めろ」
こういう奴はさっさと切らないと後々面倒になる
俺はデュークを扉の外へ押し出すと、二度と来るなという思いも込めて強く扉を閉めた
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ルディ「…」
デューク「えへへ、こんにちは」
次の日もその次の日も、デュークは毎日のように店に現れるようになった
そのしつこさと言えばもう、苛立ちを通り越して呆れるほど
ルディ「お前さ、いい加減にしろよ。何回言えば分かるんだよ」
デューク「すみません、でも、僕絶対ルディさんの元で学びたいんです」
弟の為だ何だって、俺が嫌いな言葉ばかり並べやがる
こいつは対俺言語兵器かよ
デューク「これ、作ってきました、良かったら食べてください」
最近は食い物をよこして懐に入り込もうって策らしい
そんなに簡単に心を許してたまるかよ
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ルディ「……………うめ」
今までデュークから渡された物は全て放置してきた
が、その日は何となく、甘い香りと空腹も手伝って、マフィンをひと口かじってみた
ルディ「……」
驚いた
これまで食ってきた中で一番美味かった
いい店でマフィンなんか買って食った事はないが、それでもわかる
街のいい店のマフィンなんかより、何倍も、何十倍も美味いんだ
鼻歌を歌いながらマフィンを作るデュークの姿を想像する
明日は、何持ってくるかな、あいつ
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デューク「これ、クッキーなんですけど、焼き菓子って口の中ボソボソするでしょ?ですからね、ほら!紅茶も持ってきました」
ルディ「…」
デューク「あ、紅茶好きじゃなかったですか?コーヒー牛乳もありますけどどっちがいいですか?」
ルディ「………………コーヒー牛乳」
デューク「わかりました!」
無視していても構わず喋りかけてきて、時々言葉を返してやると馬鹿みたいに嬉しそうな顔をする
無愛想な俺にやたら明るく話しかけるデューク、そんな奇妙な光景を、店に訪れる客は皆怪訝そうに見るのだった
デューク「あの、弟子の件、考えて頂けましたか?」
ルディ「……」
デューク「僕、家事全般は得意なんです、住み込みで働く覚悟もできてます、あ、もちろんご迷惑じゃなければ、なんですけど」
そりゃ、美味い飯が食えて、掃除も洗濯も全部任せられるなら、下手な家政婦雇うよりは得だろうな
ルディ「……」
デューク「……」
ルディ「……」
デューク「……」
じっと俺を見つめるデューク
……負けた
こいつの押しの強さは予想外だった
ルディ「今日はもう店閉めるぞ」
デューク「……また明日来ます」
ルディ「鍵」
デューク「?」
ルディ「そこの扉の鍵、閉めてきてくれ」
デューク「?…?………あ!はい!!」
一言、弟子にしてやると言えばいいのに
ひねくれた俺の性で遠回しな言い方になったが
うまく伝わったみたいだ
自宅への扉を開けっ放しにして店を後にする俺を見て、驚きと喜びを溢れさせているのがわかる
…犬を飼うと思えば、そんなに気を置く事じゃないよな
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ルディさんが、作りたての料理をすごい勢いでかき込んでいく
弟の看病をしていたから、料理は得意だ
デューク「あんまり急ぐと喉に詰まりますよ」
ルディ「ん゛」
デューク「あぁほらーっ」
慌ててルディさんに水を手渡す
家には冷蔵庫こそあるものの、中身はほとんど空っぽだった
あるのは少しのパンとチーズ、あとは日持ちのするものばかり
料理を作ろうにも、街へ調達に行かないと材料が無い状態
この人は今までどうやって生きてきたんだろう
というか、よく生きてこられたなあ
デューク「おかわりありますから、ゆっくり食べてくださいね」
ルディ「ん、おかわり」
デューク「...」
無言で食べ続けるルディさんの目には、いつもの鋭さが無い
まるで子供みたいに、目の前の食べ物に夢中になっている
ご飯だけでこんなに態度が変わるとは
なんて単純な人だ...
デューク「お風呂沸いてますからね」
ルディ「本当か?」
最後のひと口をペロリと飲み込み、風呂場へ向かうルディさん
デューク「洗濯するもの出しといてくださいね!」
さっきお風呂を掃除したとき
浴槽を使っている感じがしなかった
ずっとシャワーだけで済ませていたんだろうか
面倒くさがりなのか?
働きがいがあるというか
世話のしがいがある
いや、世話になるのは僕の方だが
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久々に湯船に浸かりぽかぽかした気分で寝室へ戻ると、そこは既にベッドが整えられ、完璧な環境が整っていた
ポフッとベッドに腰掛ける
デューク「そんな感じでよかったですか?」
ルディ「ま、まぁ...」
デューク「じゃあ僕ソファで寝るので。おやすみなさい」
そう言って部屋を出ると、階段をパタパタと降りていく
あいつ、よく働くな
初日だけど、まあ、感心だ
体を倒し仰向けになってみる
いつの間に洗濯されたのか、真っ白でくすみのないシーツからはほのかに洗剤のいい香りがした
俺はその心地よさに、落ちるように眠りについていた
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デューク「おはようございます!」
朝起きると旨そうな匂いがして、空腹だった俺は匂いにつられキッチンへ向かう
そこでは何故か自前のエプロンを身につけたデュークがベーコンを焼いていた
デューク「すぐできるので座っててくださいね」
そう言うとフライパンに向き直り、鼻歌まじりに料理を再開する
本やメモで散らかっていた机の上には、代わりにナイフとフォーク、コップに注がれた牛乳、さらに新聞が置かれていた
そこへ朝食が運ばれる
デューク「どうぞ」
パンの上にベーコン、目玉焼きがのっている
おまけにレタス、ブロッコリー、トマト
デューク「あっ野菜残しちゃだめですよ」
ルディ「いらね」
パンは見るからに美味そうだが
野菜は嫌いだ...
デューク「ルディさん、改めてよろしくお願いします」
デュークが急にかしこまって挨拶をする
ルディ「ん…それより、弟の病気ってどんな病気だよ」
デューク「ああ……それが、よく分からないんです。どの医者に見せても奇病だって」
もう他に当たる宛がないってことか
そもそもどんな病気かもわかってないのに
どうにかしようって、こいつは…
デューク「とりあえず手がかりを掴むまで、薬学治療の知識を身につけたいんです。きっと何か役に立つはずですから」
ルディ「…へえ」
わりと、本気なんだな
信念、熱意
そういうのは嫌いじゃない
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