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「…絶滅したと思ってた」
再び口をきいてくれたのは、私の家についてからだった。
「お人好しって人種は、絶滅したと思ってた」
野暮ったい私のジャケットを羽織り、タクシーの中では寝ていたのかどうか、彼は一言も発しなかったが、彼は私の後ろを素直についてきてくれた。
部屋の明かりをつけ、一年半振りの他人の訪問の為にスリッパを出した。
脱ぐ靴もない玄関で、彼は足を見詰めている。
「散々外を裸足で歩いて、部屋の中で履き物はくのか。…笑える」
そう呟いた彼はスリッパを履いて私のテリトリーに入りこんだ。
「まず風呂にどうぞ」
渡したグラスの水を飲み干した彼は、言われた通りに風呂へ進み静かにその戸を閉めた。中からシャワーを使う音が聞こえてくると、その場にストンと腰が落ちた。
「お人好し、か。それも悪くないかもね」
彼の為にラーメンを作った。
インスタントのラーメンなんて久々だ、と嫌みにしか聞こえたなかったが、彼の顔は満更でもなさそうだった。私も向かい合って啜れば、無言の時間も全く気にはならなくなった。余程気に入ってくれたのか、それともお腹を空かせていたのか、彼はおかわりを求め私は素直にもう一杯作った。自分には先程のスープに残り飯と卵をときいれ、グツグツと煮込んだ雑炊もどきに冷凍のカット青ネギを山盛り入れて皿に移した。
彼はそれをみて唾を飲み込んだ。
女と居てはこんな残飯みたいな飯を食べる機会があるわけがない。そして、男はこういう飯を異常に喰いたくなるときがある。
「一口くれよ」
「どーぞ」
彼は代わりにラーメンを差し出し、渡した雑炊もどきを一気にかきこんだ。口の中を切っているのだろう。途中顔を傾けながら、それでも彼の“一口”は終わらなかった。
器を持ち上げ食べ干して、彼はようやく器を返してきた。
「悪い。完食した」
彼は笑っていた。女に向ける笑みではなく、幼さの残る無邪気な笑い方だった。
「風呂入るから、寝てていいよ」
「どこで?」
「一緒のダブルベッドが嫌なら、床にでも寝て」
私は彼の反応を見ないようにして風呂へと逃げた。
彼の雄の顔が見たいと思った。食いちぎられるのではないかと思えるほど生命の危機を感じたかった。
それなのに、真逆の行為をしてしまった。
いつもそうだ。酷く扱って欲しいと切望しているのに、真っ当な付き合い方しか出来ない。
バスタブのへりに片足を上げた私は、自身の指を秘孔に指して掻き乱した。自分でだって乱暴に扱うのは難しい。しかし漏れないように声を殺して、それでいてあまり時間をかけないようにほぐして、私は準備をしていた。
……この半年、私は彼に何を求めていたのか。
今日私は、無理やりにでも必ず、彼に抱かれる。
そう決意して、指とシャワーを止めた。
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