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出会いは秋でした 4
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「本当に行くの?」
「うん」
シャワーを浴び、髪を乾かすと、アルはすぐに服を着て出ていこうとした。
気は変わらないらしい。
「アル、僕が既に通報していて、もうすぐ役所の人が来るって言ったら、どうする?」
さっと血の気が引いて、アルは脱兎のごとく駆け出す。
その手を掴むミカに
「嫌だ! 離して!」
と抵抗するアル。
「どうしてそんなこと」「ひどい」とミカを責める言葉を吐き続けるアルの手が何度もミカの腕を打った。
赤くなり、内出血し、爪の当たったところは皮膚が裂けているのにミカは手を離さない。
「嘘だよ、アル」
一瞬ホッとしたが、アルはキッとミカを睨むと
「信用できない」
と低く言い放った。
「油断させて補導するつもり?」
「悪かった。本当に通報してない。どこにも、誰にも」
それでもアルは疑いの目を向け続ける。
「でも、いつそうなってもおかしくない。僕が、じゃなくて誰かに通報される可能性は高い」
アルはそれが事実だと知っている。
だから黙るしかなかった。
反論はできない。
「だからさ、アル、ここにいなよ。君の‘帰る場所’探しには付き合うから」
「…信用…できない。ミカが通報しないって保証は無いから」
ミカはため息をつくとアルを机まで引っ張った。
「ちょっと! 何すんだよ!」
「ここ押さえてて」
上質な厚手の白い紙の隅を指さされたが、アルは訳がわからなかった。
「なんで」
「左手は君から離したくないから。紙を押さえててくれないと書けない」
「何書くの」
「いいから」
これ以上は聞いても無駄だろう。
仕方なしにアルは言われたところを指で押さえた。
ミカが高そうな万年筆を持つと、口にくわえてキャップを外す。
紙の上をペンが走る音がはっきり聞こえる。
書き終えると、ミカはそれをアルに差し出した。
「これで信用してもらえないかな?」
アルは「何これ」と聞きながら紙を受け取った。
「社員証の代わり。IDカードができるまでの仮の。肩書きは僕の秘書」
ざっと文面に目を通し、右下のミカのサインを見てアルは驚きの声を上げた。
「ええぇっ! ミカって社長だったの!?」
「小さな会社だけれどね」
ミカは優しく微笑んで続けた。
「アル、どうしてもここを出て旅を続けたいなら、それを持っていて欲しい。それが身分を証明してくれるから、君は施設送りにならずに済むはずだ。万が一、事故に遭っても身元不明ということにはならない。僕のところに問い合わせが来るだろう。だから出て行くなら持って行って欲しい。そして、いつ戻ってきても構わない。いつでも歓迎するよ、アル」
ミカはすっと左手を離した。
「あり…がと…」
アルが視線を落とすと赤くなったミカの左腕が目に入った。
「ごめん」
アルは俯き、腫れたところを撫でた。
「いいよ。君を脅かした僕が悪い」
アルは首を振ってそれを否定した。
「左手、使える…?」
「骨折したわけじゃないから大丈夫だよ」
安心させるように、ミカが腕を振って見せる。
「でも、重いものとか持てないよね?」
「ん~。数日はね」
「趣味の料理も不便だよね」
「まぁ、デリカもあるし」
「…俺が怪我させたから、責任取る」
「?」
「ミカの腕、治るまで俺が左手の代わりになる」
言いにくそうに、そんなセリフを俯いたまま言うものだから、ミカはしばしキョトンとなって、それからようやくアルの言ってる意味がわかると、彼をふわりと抱きしめた。
「ここにいてくれるの?」
「治るまでだよ」
「ありがとう」
「…俺、ミカの秘書だから」
一瞬驚いて、それから嬉しくて、小さく笑うとミカはアルの髪にキスをした。
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