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出会いは秋でした 5
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翌日、ミカは仕事に出かけた。
アルは掃除と洗濯を任されたので、それを忠実にこなした。
キッチンの棚や冷蔵庫には食材があったので、夕食も用意してミカを待った。
しかし、ミカはなかなか帰ってこない。
社長って多忙なんだな、とか、何時に帰るか聞いておけばよかったな、などと、テレビを見るともなしに眺めながら考える。
電話をかけようとして、ミカの会社の番号も携帯電話の番号も知らないことに気付く。
電話帳をめくってみると会社の番号は載っていたが、何時に帰るのかなんてくだらない用事でかけたら迷惑だろうと思ってやめた。
冷蔵庫に残っている食材を見ながら明日の食事は何にしようかと考える。
卵を買い足したいなと思ってから、ここの鍵を持っていないから外出はできないと思い至った。
正確に言えば、オートロックだから出ることはできるし、施錠できなくて無用心ということもない。
しかし、オートロックだから買い物から帰ってきても入れないのだ。
締め出されてしまうと思ったら急に胸が冷えた。
今まで毎日違うベッドで寝て、毎日違う玄関から出発していたのに、何を今さら寂しいと感じるのか、アルは自分の感情が理解できなかった。
俺なんでこんなに苦しいんだろ?
アルはそれを不自由ゆえと結論づけた。
今までの自由さが無い。だからだ、と。
そして、ミカが治るまでだから、数日の我慢だと自分に言い聞かせた。
骨が折れたわけじゃない。数日で治る。そう、ほんの数日で。
そしたら、また探しに行ける。
今苦しいのは探しに行けてないからだ。
昨日今日と外に出ていないからだ。
そうに違いない。
きっとそうだ。
「じゃ、なんで俺…」
ソファで膝を抱えテレビを眺めている内にアルの瞼は重くなり、いつの間にか眠ってしまった。
ミカは夜遅くに帰宅した。
玄関も廊下も、どこもかしこも真っ暗だ。
やはりアルは行ってしまったのか?
ミカは微かな音に気付いてリビングのドアを開けた。
明かりも点けずにアルがソファに丸まっていた。
テレビの明かりでアルの上を影が動き回る。
そのせいで複雑な陰影を刻むアルの寝顔は、どこか苦しげだった。
「アル…」
まだ居てくれた、とホッとしてアルの髪を撫でる。
「こんなとこで寝てたら、風邪ひくよ?」
ミカがアルの頬にキスするとアルはゆっくりと目を開けた。
「…ん…ミカ…?」
「ただいま」
「おかえりなさい」
「ふふっ」
「何?」
「いや、ただいまを言う相手がいるのって、いいものだなと思って」
「そう?」
「うん」
それから遅い夕食を2人で摂り、一緒に眠った。
ミカは嬉しく思いながら。
アルは戸惑いながら。
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