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アルは会社員1年生 2
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「ジルも座って」
ミカに頼まれた紅茶をテーブルに置いて立ち去ろうとするジルに、彼は向かいのソファを視線で促した。
「はい…?」
ジルは何事かと不思議に思いながら腰掛け、テーブルの向こうの2人を見た。
アルはきっと泣き止んだばかりなのだろう。
目を赤くして鼻をすすっている。
片やミカは、おかしくてたまらないといった様子で肩を震わせている。
なんとも対照的だ。
「…あの、社長、何が…?」
それに答えようとしたミカだったが、口を開いたとたん笑い出し止まらなくなってしまった。
やっとのことでそれを止め、それでもこみ上げてくる笑いを抑えながらミカは説明した。
「アルが僕が死ぬのかって血相変えて飛び込んでくるから何事かと思ったら」
そこでまた続きを話せないほどに笑って涙目になるミカ。
「だって! 本当に心配したんですよ!」
アルが膨れっ面になるのを見てジルは、しかし真顔で口を挟んだ。
「あの噂、違うんですね?」
アルとミカはジルの余りの真剣さに驚いて動きを止めた。
「私も小耳には挟んでいました。まさかと思いつつ心配もしていました。でも、社長が何も仰らないので黙っていました。言うべき時と判断されたら、社長はお話くださるはずだと思っていましたので…」
なぜミカ重病説が流れたかといえば、それはアルが養子で、いずれは秘書になると最初から伝えられたことに端を発する。
ミカはまだ40代になったばかりだ。
これから結婚もして子供を儲けることもできるはず。
なのに養子をもらい、社内全部署を回らせ、いずれは秘書にする。
秘書にして自分のそばで社長業を学ばせ継がせるのだろう。
その上、アルのあの必死さだ。
多分、先が長くないに違いない。
憶測が憶測を呼び、ついにアルの耳に入る頃には、近々引退してアルに後を任せ、もうすぐ死んでしまうというものになっていた。
「ジルも知ってたの?」
「はい。社長に確認はしていませんでしたが」
「そうか…。心配かけたね、ジル」
「いえ…」
「アルにも言ったけど、そんな噂は信じないで。全くのデタラメだから」
「はい」
ジルは胸を撫で下ろしたが、ミカは眉間にシワを寄せた。
「アルなら笑って終わりにできるけど、ジルまでとなると笑い話じゃ済まないね」
「そうですね。従業員たちにも動揺は広まってるでしょうし」
「どうしようか…」
ミカはちらっとアルの顔を見た。
すっかり泣き止んで、うっすらと目が赤い他は元に戻ったようだ。
そして、意を決したようにジルに向き直った。
「ジル、これから驚くようなことを言うけど聞いてほしい」
ミカは再度アルに目を向けると、ひとつだけ深呼吸した。
「アルは僕の息子じゃなくて、-恋人なんだ」
予告無しのカミングアウトにアルが目を見開いた。
動揺してるであろう彼の頭にポンと手を置き、ミカは安心させるように笑うとジルへ目をやった。
どんな反応をするのだろう。
ミカは緊張を笑顔で隠した。
「存じております」
絶句するだろうと思っていたのに、ジルの答えは全く予想外で、絶句するのはミカの方になった。
「…え…言ってたっけ…?」
「いえ。ですが…」
ジルは目をそらし顔を赤らめた。
「バレバレです」
「バレバレ?」
「はい、残念ながら」
「冗談…」
「いえ、本当です」
「だって、僕、アルに何もしてないし、だって」
慌てるミカがおかしくて、ジルはぷっと吹き出した。
「確かに行動では何もそうと思わせるようなことはありません」
「じゃ、なんで」
「ですが、社長、アルを見る時の目が全然違うんですよ」
「それは息子だから、家族だから」
「いいえ、到底それで通じる範囲ではありません。まぁ、お二人が直接会ってらっしゃるのは社長室でくらいなものでしょうから、他の人は気付いてないと思いますが」
ジルはくいっと眼鏡を上げると、それまでの砕けた笑みを消して、真剣な眼差しで警告した。
「お気を付けてください。体調不良説同様、変な噂になってしまうのは避けたほうがよろしいと思います」
「そうだね」
ミカはため息をついた。
「じゃぁ、僕が死んじゃう噂はどうやって消すか、プランを練ろう」
アルはミカが重病ではないと分かってほっとしたが、ミカとの関係は隠し続けなければならないのかと、無意識に左手の薬指を撫でた。
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