アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
指輪の無いプロポーズ 2
-
「ただいま」
メールで予告した時刻にミカがキッチンに現れる。
「おかえりなさい」
アルはいつも通り笑顔で迎える。
キスもハグも毎日のことなのに、アルはやはり嬉しいと思うし、ミカも同じように感じていた。
夕食を摂りながら交わすたわいもない会話。
大きなことは無いけれど、日常こそが幸せだとミカは知っている。
そしてアルも、今の温かな毎日が当たり前ではないと理解していた。
夕食後、ソファで寛いでいるとミカがアルに聞いた。
「勉強は楽しい?」
「うん!ありがと」
「そう、良かった。でね、アル」
ふと笑顔のまま真剣な眼差しになって、ミカはアルと目を合わせた。
「進路について相談があるんだ」
「進路?」
「うん、そう。単に進学の話だけじゃなくて、将来って言ったほうがいいかな」
ミカの少し躊躇った表情にアルが不安を覚え頬が強張る。
それを見てミカは肩を抱き寄せ、髪にキスした。
「大丈夫。悪い話ではないよ。ただ、確認しなきゃいけないことがあるんだ」
そっとアルの頬を撫で、ミカは不安で揺れる瞳を見つめた。
「アル、君は今、何歳?」
いったい何を聞かれるかと思えば、なんだ、そんなこと。
ほっと息を吐きそうになって、アルは、しかし気付いた。
その質問には答えられない。
多分、ミカは今まで気を遣って、こういう話題には触れないでいてくれたのだろう。
「アル、言いたくないなら言わなくてもいい。無理には聞かないから」
「…ミカ、俺…歳、わかんない…」
ミカはあやすように抱きしめた。
「いいんだよ、今は無理に言わなくても。いつか教えてくれたらいいからさ」
柔らかい声で穏やかにそう言うミカ。
彼の優しさがにじみ出ている。
そう、配慮だった。
そのつもりだった。
しかし、それはアルが年齢を隠している、もしくは偽ることを前提にした言葉。
「ミカ、疑ってんの?」
悲しそうに見開かれた目がミカを見つめる。
「俺が嘘ついてるって、そう思ってるってこと?」
混乱した笑いが浮かんだ顔に、さっと怒りが広がり、アルはミカの腕を抜けてソファを立った。
「本当に分かんないのに!!」
ミカの方こそ混乱しそうだった。
ただ年齢を聞いただけだ。
そして多分、出会った時の状況から察するに、身元に繋がるものは言えないのだろうと思っていた。
だから今まで何も聞かずに過ごしてきた。
だが、これから必要になる。
しかし事情もあるだろうから、アルが言えると思ったらでいい。
そう伝えただけなのに。
「なんで…。何におびえてるの? アル」
きつく唇を結び、ミカを睨むアルの瞳は潤んでいる。
「もういい。出てく。今までありがと」
玄関へと大股で歩くアルを、ミカが慌てて追いかけ、その手をつかんだ。
「どこ行くの」
「どこだっていいじゃん」
「また探しに行くの?」
「ああ、そうだよ」
そっぽを向いたまま、ぶっきらぼうに答えるアル。
「でも、ここを‘帰る場所’にしたんじゃなかった?」
「俺の勘違いだった! だから行く!」
つかまれた手をぐいっと引き、それでも離さないミカに構わず歩き出す。
「離せよ」
「嫌だ」
「離せ!」
「嫌だ」
「なんでだよ!」
「僕の恋人だから」
心底驚いたという顔でアルがミカを見つめる。
「恋人なんてなった覚えないけど」
「じゃ、今なろう」
驚きの次は呆れて、アルはぽかんと口を開いた。
「嫌だよ」
「なんで」
「なんでも」
「だって僕、アルのこと好きなんだ。大切にするよ。今までもしてきたけど、これからはもっと。アルだってここの暮らし、気に入ってたでしょ? 僕と暮らすの嫌じゃなかったでしょ? アル、アルだって僕のこと好きだよね?」
「はぁっ!?」
怒って見せてはいるもののアルの顔はすでに赤い。
ミカがアルを抱きしめたが、アルは抵抗しなかった。
「アル、好き。大好き。愛してる。僕のものになって」
ミカの胸に額をつけてアルがぼそっと呟いた。
「今日だけ、だから」
「ありがとう」
アルの額にミカはそっとキスをした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 213