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指輪の無いプロポーズ 4
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翌日は土曜日で、買い物を済ませた2人は、いつも通りのんびりと過ごしていた。
「アル、今なら気分は落ち着いてる?」
「ん? 何?」
ソファに寝そべって本を読んでいるアルに声をかけて、ミカは彼の足の方に座った。
「将来のこと話し合うの、いつにしようと思って」
アルは起き上がって本を閉じると座りなおし、
「今でもいいよ」
と真剣な顔で答えた。
ミカは壊れ物を扱うように、そっとアルの髪から頬を撫でた。
「アルが今勉強してるのはコレージュの内容でしょ? リセに行くには修了資格を取らなきゃならないけど、それには君の市民籍と身分証明書が必要になるんだよ」
「ミカ、俺いいよ。こんなに世話になって、何から何までお金出してもらって、悪いから働くよ」
「だめ。義務教育も終えないで働けるわけないでしょ。それにリセも出てない人に仕事なんかあるわけない」
「でも」
「それに、アルはリセだけじゃなくて大学も卒業するんだよ?」
「いや、俺、バカロレアとか無理だから!」
ミカのセリフに驚いて、アルはぶんぶんと首を振った。
「何言ってるの。アルは僕の秘書になるんでしょ?」
そういえばそうだった、とは思ったものの、あれはただの方便だと思っていたから、ミカが本気なのだと知って、アルは再度驚いた。
「まじで?」
当然というように頷くミカ。
勉強は嫌いじゃない。
しかし、何年も先までとなると想像しきれない。
その時自分はどうなっているのか?
ミカは?
2人の関係は?
「ミカ、あのさ、もしかして、昨日のセリフ…本気?」
「昨日のセリフ? どの?」
「10年後も20年後も、ってやつ…」
ミカがにっこり頷く。
「もちろん本気だよ。死ぬまで一緒だからね」
満面の笑みで、そう言うミカ。
しかし、どう返事して良いか困ってるアルにミカは不安を覚え、その笑みを陰らせた。
「嫌だった? まだ若い君には負担かな…?」
30歳過ぎた大人が考える‘死ぬまで’と、ティーンエイジャーが考える‘死ぬまで’は、重さも長さもかなり違うだろう。
そうなればミカの思いは、アルとは同じ言葉を使っていても意味が違ってくる。
「縛りつけるようなこと言ってしまったかな?僕は」
「え、いや、そうじゃなくて、その」
「なら、いいよ。アルが自立できるまで僕を利用して。それで構わない」
あぁ、またこの悲しい笑顔をさせてしまった。
アルは申し訳なくて、自分も悲しくなって、ミカの肩に額を乗せた。
「ごめん」
「うん、いいよ。好きだから、利用して」
「いや、そうじゃなくて。違うんだ、ミカ。俺、ずっとその日暮らしだったから、先とか未来とか、何年も後のこととか、全然想像できなくて、なんか予定とか、ほら、スケジュール帳もいらない生活だったからさ、うまく頭が働かない、ついてかないんだよ」
ふわっとミカがアルを抱きしめる
「…安心していい?」
「うん」
「良かった」
ミカはほっとしてアルの額に柔らかくキスをした。
「じゃ、本題。市民籍と身分証明書をどうしようか?」
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
脚注
バカロレアとは高校卒業認定と大学入学資格を併せたようなものです。これだけ取って大学に行かない人もいます。
フランスの義務教育は高校1年までです。
リセを卒業して資格を取らないとレジ打ち以上の職業には就けないと言われます。
…と、ここまで説明しておいて事実と異なってたらごめんなさい。フィクションだと思って見逃してください。
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