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指輪の無いプロポーズ 8
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窓の向こうには満月。
部屋の照明はすべて落とされ、月光だけが室内を満たしている。
静かなそこに響くのは微かな音だけ。
吐息と小さな水音、そして、ほんの時折シーツのこすれる音。
月光を浴びて浮かぶ2人のシルエットはぴたりと重なり合っていた。
何も身にまとわず、無防備な姿で肌と肌を合わせるアルとミカ。
ゆるく胡坐をかくミカの上に跨るアルの中には、もうミカが埋め込まれている。
対面座位は苦手だと、以前アルが言っていた。
色々と理由はあるようだが、一番は恥ずかしいということらしい。
それでも今夜はミカの誘いに乗ってくれた。
一度は性急に互いを求めて熱を吐き出した。
それでも治まらなくて、でも、二度目はゆっくりと互いを堪能している。
事実、今2人の体は繋がってはいても、ほとんど動いていない。
むしろ鼓動が聞こえてきそうなほど静かだ。
互いの腕に抱きしめあう体温に、ただ安心する。
以前、ミカは言っていた。存在を確かめ合うのがセックスだと。
今の2人はまさにその状態だった。
劣情に任せるのではなく、慈しむように、ただ互いの存在を喜び、それを伝え合うかのように手の平で肌を感じ、口付けで呼吸を感じていた。
その口付けさえ激しいものではなく、バードキスのようにわずかな接触なのに、それでも2人は満足だった。
呼吸も鼓動も、さほど早くはなく、体温もいつものように上昇してはいない。
それでも2人の昂りは静まらず、むしろ熱くなっていた。
いつもは上にあるミカの目線が、今は下からになって、アルはそれも新鮮に感じる。
どちらからともなく唇を合わせ、満足気に息を吐く。
「アル」
「ん?」
「愛してる」
アルはそっとキスをして
「俺も。―愛してる、ミカ」
再び唇を合わせた。
ミカがほんの少しだけ舌先を出すとアルがそれを吸い上げ、そして掠めるように舐めた。
いつもの熱いキスの比べたら子供のそれのようなキスでさえ、今の2人には甘く感じる。
「ミカ…、すごく気持ちいい」
「動いてないのに?」
直接的な刺激は、今アルの中にあるミカの拍動くらいなものだろう。
そして、ミカにとってはアルの中で熱いうねりが、ほんのゆっくり時折ある程度だ。
「それでも気持ちいい」
「僕もだよ」
互いの肩に顎を乗せるようにして囁き合う。
「体だけじゃなくて、心も満たされるのが…気持ちいい」
理性が飛ぶほど激しいセックスもしてきた。
しかし、今夜は2人とも理性も意識も保っている。
それでも―
「僕も、アルと溶けてくみたいで気持ちいい。ひどく落ち着く」
体はきっと興奮しているのだろう。
しかし、心は穏やかで温かい。
深い満足感で、ただ幸せに酔う。
「なんか、ずっとこのままいたい気分」
「そうだね。それも悪くない」
数え切れないほどキスをしてきた。
それでもまた、こうしてキスをしたくなる。
「俺、幸せだよ」
「嬉しいな」
ミカはこつんと額を合わせた。
「まだパクスが無い時代はね、同性カップルは結婚できないから、代わりに養子縁組をする例もあったんだ」
急な話題転換を不思議に思いながら、アルは頷いた。
「だからね、アルを養子にするのは、僕にとっては結婚と同じ気持ちなんだよ」
アルは驚きに目を見開いた。
進学するのに必要だから、ミカは自分に戸籍を与えてくれたのだと思っていた。
ミカは万が一のことも考えていると言っていたから、それに備えて、自分が路頭に迷わないよう経済的に支えるために養子にしてくれたのだと、アルはそう思っていた。
確かに恋人だと言ったし、言われた。
だが、恋人の延長線上に結婚があるとは思っていなかった。
一緒に暮らすのは住むところの無い自分を居候させてくれてるから。
恋人なら一緒にいる時間は長い方がいい。
それくらいの理由だと思っていた。
人生の一大事である結婚というものは、自分には遠いもの、そんな意識だった。
それをミカは実行してくれた。
一大事過ぎて、事の大きさを受け止めきれない。
でも、それほど重大な決断をミカはしてくれた。
「ねぇ、アル、だから、今更なんだけど、プロポーズしていい?」
ミカの笑顔はやわらかくて、あたたかくて、全てを包み込むよう。
「アル、一生愛します。どんな時も離しません。どんなになっても共にいます。僕の生涯のパートナー、家族になってください」
アルの頬を温かい涙が伝った。
「はい、喜んで…。ありがとう、ミカ。俺…も、ミカにプロポーズする」
涙で言葉を詰まらせるアルの頭を撫でながら、ミカは微笑んで待ち続けた。
しばらくして、呼吸を整え、アルはくしゃくしゃの笑顔で告げた。
「ミカ、一生愛します。ミカがどんな時もそばにいます。ミカと共にあるのが俺の幸せです。だから俺と一生涯―」
そこから先は泣きじゃくってしまい、言えなかった。
それでもミカには伝わった。
ミカはアルを抱きしめて囁いた。
「はい、喜んで」
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