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離れない指だから 1
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アルはコレージュの課程を終え、中等教育修了資格を無事に取得できた。
リセは一般を選んだが、通学ではなく通信教育を選んだ。
記憶喪失であるという特殊な事情を鑑みてのことだった。
だが、本音を言えば僕が心配で仕方がなかったのだ。
アルをそばに置いておきたい、外に出したくない、そんな独占欲のちらつく心配だったことは認めたくないが事実だ。
それに、思春期という不安定な時期に刺激を増やしたくない、守ってあげられるだけ守りたい。
そう思って通信教育にした。
アルは文句も言わず、自室で黙々と勉強した。
それまでは僕の車での移動がほとんどだったが、図書館に通うことも増えるだろうと自宅周辺の地理を教えた。
交通機関や公共施設、ショッピングモールなども併せて、週末ごとに実際に行って覚えさせた。
正直、1人で出歩かせるのは不安だったが仕方がない。
そして、アルにはリセの間に勉強の他にもやるべきことがあった
大学へ行ってからでも間に合わないことは無いだろうが早いにこしたことは無い。
むしろ、高校生の方が時間がある。
そう思って、アルには学校では教わらない類のことを教えた。
テーブルマナー、手紙の書き方、ドレスコード、ダンス、文学、芸術、一般教養、言葉の選び方、立ち居振る舞い、et cetera
アルは僕の秘書になる。
もちろん、小さな会社だから上流階級の人たちと交流があるわけではない。
しかし、パーティーや様々な会食、会合に出席することは珍しくない。
アルも身に付けていて損はない。
知っていれば委縮することも少なくなるだろう。
だから3年かけてじっくり教えた。
実践に勝る経験はないだろうと、定期的にそれなりの店やホテルで食事もした。
芝居、コンサート、美術館、博物館、感性を鍛えるために、そういったところへも連れて行った。
アルは本当によく吸収する子だった。
記憶を失う前はどんな生活をしていたのだろう?
きっと優秀な子だったんじゃないかと思う。
まぁ、素行は問題があったかもしれないが…。
そしてアルは見事、バカロレアも一発合格した。
本当によく頑張った。
さすがに大学は通学を選んだ。
もちろん、通信でも可能だ。
だが、ここからは人の間で揉まれた方が良い。
人間というものを知る時期だ。
アルは頑張って学士過程を3年で終わらせると言ったが、僕はゆっくり学べと言った。
本や講義では教えてもらえないことを講師や教授、学生同士の交わりから学ぶ大事な、そして貴重な時期だ。
記憶の欠けているアルには、むしろゆっくりと大学で埋め合わせをしてほしい。
友達を作るのも良い、仲間と騒ぐのも良い、若者特有の尖った感性で互いを研ぎ合うのも良い、成績に影響しないならアルバイトも許そう。
僕はアルのこれからが楽しみだ。
だから、バカロレア合格のお祝いをしようと提案した。
今日はその約束の日だ。
そしたら今朝になって、アルが面白いことを言い出した。
いつも一緒に出掛けるから、待ち合わせをしてみたい、と。
確かに同じ家にいて、同じ所へ出向くなら、移動も一緒になるのが当然だ。
しかし、待ち合わせというのは、確かに何とも言えないわくわくした感じがする。
僕はアルの提案を採用した。
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