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離れない指だから 2
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アルの16歳の誕生日には腕時計を贈った。
アルの身分証明書が取れた記念でもあり、2人で祝う初めての誕生日でもあった。
そして、その夜、互いにプロポーズした。
まさかそうなるとは思ってなかったから指輪は用意してなかった。
アルも恥ずかしがって、要らないと言ってたから、僕も無くても良いかなと思っていた。
だけど、アルは大学へ行く。
これからのことを考えて指輪は着けててもらおうと思い、アルには内緒で注文しておいた。
だから、待ち合わせしたいというアルの提案はちょうど良かった。
僕が先にアパルトマンを出て、指輪を注文した店で受け取り、待ち合わせ場所に向かう。
アルは僕の1時間後にアパルトマンを出る。
あえてアルは僕を見送らず、僕もドア越しに行ってきます、と声をかけた。
今日、食事をする店のドレスコードは伝えてある。
そう、せっかく待ち合わせをするのだから、どんな服を着てくるのかなという楽しみも味わおうというわけだ。
約束の時間まであと10分少々。
僕はワクワクしながら愛しい人を待っていた。
「お一人ですか?」
見知らぬ女が声をかけてくる。
おそらく客引きだろう。鬱陶しい。
「いえ、人を待ってますので」
あからさまな拒否の表情を作って言ったはずだった。
しかし、彼女はしつこい。
ついには腕を絡ませてきた。
わざと押し当ててるであろう胸の感触も、鼻につく下品な甘ったるい匂いも、何もかもが気持ち悪い。
逃げよう。
腕を振り払って彼女と反対側に足を踏み出したところでアルの姿に気付いた。
目を見開いて驚いているようだが、口元はなぜか笑っているようだった。
「アル」
彼が一歩後ずさる。
「アル?」
僕は足を止めてしまった。
彼が近付いて欲しくないように見えて。
しかしアルは一瞬、笑ってるような泣いてるような顔になったかと思うと、すぐに何でもなかったかのように
「お待たせしました」
と、笑顔を繕った。
どうしようか。
一瞬迷ったが、予約してある店はここから少し歩く。
ゆっくり歩きながら話そう。
それでだめなら、その時にまた考えよう。
僕はアルを「行こう」と促した。
1ブロックほど無言だった。
行き先を知らないアルは僕の半歩後ろを歩いていたので、会話しづらいと言い訳すればできたかもしれない。
でも、僕はそれを許さなかった。
角を曲がって人通りが少し減ると、まだ表情の硬いアルに僕は声をかけた。
「大丈夫?」
「何が?」
「無理しないの。顔色良くないよ。具合悪い?」
「全然!」
わざとらしいな。
見え透いた空元気を、僕が見破れないわけないのに。
「アル、体調悪いわけじゃないなら、ちゃんと理由を言ってごらん」
「…」
返事をしないアルに焦れて、僕はスマートフォンを取り出すと、「キャンセルしよう」とタップした。
「待って! キャンセルしなくていい。本当に大丈夫だから」
僕がスマートフォンを仕舞うのを見てホッとした様子のアルは、しかし目を合わせようとしない。
あえて何も言わず、じっと待っているとアルがためらいがちに口を開いた。
「ミカ、笑わない?」
「笑わないよ」
「呆れたりしない?」
「しないから話してごらん」
アルは何かを言いかけては口をつぐみ、しばしそれを繰り返してから、やっと話し始めた。
「今日、待ち合わせして、俺、ドキドキしてた。なんか楽しくて、でも待ち合わせ場所についたらミカが女の人とくっついてて、もちろんミカが嫌がってるのはすぐ分かったし、ミカが俺を裏切るわけないから、それは心配とか不安とか無かったけど、でも、すごく嫌だった。俺のミカに触るな、とか、なんかモヤモヤして…。でも、ミカは女性の方がいいのかなって、あ、あの変な女って意味じゃなくて。ミカは社長だし、もっと俺よりふさわしい女性と…ちゃんと結婚して、それで…って考えたら、俺、ミカに釣り合わないどころか迷惑かけてるとか思って…。だって拾ってもらって何も返せてないし、厄介になるばかりでいいのかなとか、でも、ミカのそば離れたくないし、どうしたらいいんだろうって…」
そこまで言って、アルはようやく顔を上げた。
一生懸命作っている笑顔が痛々しい。
僕はビルとビルの間の狭い空間にアルを引っ張り、ぎゅっと抱きしめた。
「アル、僕はアルを愛してる。アルは?」
恐る恐ると僕の背に腕を回し、アルは小さな声で答えてくれた。
「俺も…愛してる。ミカのこと、好き…」
「じゃ、話の続きは店に着いてから。それから」
アルにキスをした。
いきなり過ぎてアルが応えられないくらい深いキスを。
「この続きは家に帰ってからだ」
顔を真っ赤にして頷くアルが可愛い。
可愛いなんて歳じゃないとアルは言うと思うけど、やっぱり可愛い。
僕はアルの手を引いて歩き出し、予約の時間に少し遅れて店に着いた。
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