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監禁したい 1
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「ただいま。…あれ?」
いつもなら出迎えてくれるはずのアルが部屋から出てこない。
夕食の準備中? もしかして具合悪くなったとか?
アルの部屋にアルはいなくて、寝室にもキッチンにも、バスルームにもいない。
どこもかしこも真っ暗で、アルの携帯電話は彼のいつも持ち歩いてるメッセンジャーバッグと共に見当たらない。
普通なら買い物か何かで帰りが遅くなってるんだろうとか考えるけど、アルの場合は違う。
「またか…」
僕はアルには聞かせられないため息をついた。
アルは記憶のほとんどを失ってしまってる。
そして、そのあやふやな記憶の中の‘帰る場所’を探してウロウロと徘徊のような旅をしていたところで僕と出会った。
だから、ここを‘帰る場所’と決めた後も、時々ふらりと探しに出てしまうのだ。
図書館はとっくに閉まってるし、お店だって、この時間は飲み屋くらいしか開いてない。
心配だし、不安だし、何より、これが何回も繰り返されることに少々疲れてきていた。
この先、何回あるのか考えると気が滅入る。
それでも毎回、見つける度にほっとして、嬉しそうに笑うアルの顔を見ると苛立ちも消えてしまう。
それに以前は携帯電話すら置いて出ていくから何時間も見つからないなんて珍しくなかった。
諦めてへとへとになって帰宅すると、どこですれ違ったのやらアルが帰ってて、『お帰り』なんて出迎えられたこともあった。
悪びれもせず、へらっと笑って僕に抱き着く彼には、何というか怒る気も失せてしまう。
今では携帯電話は持って出ていくようになってくれたから探すのも楽だ。
僕はスマートフォンのGPSアプリをタップすると、アルの携帯電話の現在位置を見つけた。
今日はずいぶん遠くまで行ってるなぁ。
今入ってきた玄関を出て1階に降り、まだエンジンの冷えてない車に再び乗り込んで、僕は西へと車を走らせた。
アルの移動は徒歩だ。
彼曰く、足の向く方へ行くから交通手段は使わないのだとか。
空気の肌触りで、‘帰る場所’の匂いをたどる、みたいなことも言ってた。
だから車で1時間近くかかる場所まで行ってしまっているアルは、いったい何時間歩いたのやら…。
ようやく見慣れた後姿を見つけて車を止める。
まだ僕に気付いていないアルに電話をかけた。
「アロー」
「アロー」
「僕だけど、どこ行ってるの?」
「うんとね…あれ、どこだろ?」
電話越しにお気楽に笑うアルの声が聞こえる。
「アル、後ろ見てごらん」
車のライトに浮かぶアルの姿がこちらに向きを変えた。
パッシングすると
「ミカ!」
アルが満面の笑みで駆けてくる。
そして助手席にすとんと座ると、「ミカ!」と嬉しそうに笑って抱き着いてきた。
「今日の‘散歩’はずいぶんと長かったみたいだね」
腕の中で無邪気に笑うアルの額にキスすると、夜風に当たっていたせいか少しひんやりとしていた。
「ん~、そうかも」
「いったい何時に家を出たんだい?」
「…分かんない…」
「全くもう」
ぎゅっと抱きしめるとアルが小さな声で「ごめんなさい」と言った。
彼は毎回そうやって謝罪する。
しかし、それでも‘散歩’を繰り返す。
よほど強い衝動なのだろうと、僕は諦めている。
正直、理解はできないのだけれど…。
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