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Vierge 1
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春は気持ちいい。
暖かくて、花が咲いて、服も変わるから、街全体が明るくカラフルになる。
春は好きだな。
俺が大学へ入って約半年。
たくさんの知識も面白いけど、何より、自分の知らないことがすごくたくさんあるってことの驚いた。
学問の面じゃなくて、だ。
大学生くらいの年齢なら当たり前であろう雑学、経験、知恵、そういったものが俺にはほとんどない。
そのせいで呆れられたりもするけれど、俺は正直に言ってる。
自分は記憶喪失なのだと。
それで大概の人は理解してくれるけど、厄介なのは好奇心てやつだ。
いつ、どこで、どうやってそうなって、その後どう暮らしてきたのか、根掘り葉掘り聞かれる。
そうなることはミカにあらかじめ言われてたから予想できた。
その対処法もミカに教えられていた。
嘘は良くないけど、聞かれたくない、話したくないとハッキリ言うのは悪いことではないとミカは言った。
『断って離れていくなら、それは君の友人としてふさわしくない人間だから気に病むことはない。断っても付き合えて、踏み込まずにいても笑い合えるのが、友達になれる可能性がある人だよ』
ミカはそう教えてくれた。
まぁ、そうは言っても、記憶を失ってからミカ以外に構築するほどの人間関係なんて無縁の生活だった。
だから人付き合いが良く分からない。
ミカはそれを学ぶために、大学は通信でなく通学を選んでくれた。
たくさん失敗してたくさん学べ、と励ましてくれたけど、やっぱり失敗は痛い。
遠回しな表現やジョークが分からなかったり、俺の言葉が足らなかったり、言い方が不適切だったり、それから距離の取り方や講義以外の付き合い方が分からない。
誘われるままに遊びに行くのは良くないけど、どの辺を断っていいのか、どう断ればうまくいくのか、本当に疲れる。
そんな話をしたらミカに笑われた。
『アルは頭いいのにね』
こっちは真剣に悩んでるってのに。
それでもミカは貴重なアドバイスをくれる。
不慣れな環境にいきなり放り出したんだから必要なことは何でもするし、守るってミカは俺に約束してくれた。
ミカは学業の面では心配してないと言った。
心配なのは初めて人の間で揉まれる俺の精神面と、毎日1人で通学させること、だそうだ。
俺のメンタル気にしてくれるのはいいけど、通学って何。
電車くらい1人で乗れると言ったらミカは『それが心配』と‘散歩’のことについて不安を漏らした。
そう、俺は未だにそれを完全にはやめられてない。
でもミカには心配も負担もかけたくない。
だから、‘散歩’をやめる方法はないかと今でも模索中だ。
ミカには記憶喪失のことだけでなく、もうひとつ注意を受けていたことがある。
指輪のことだ。
俺がミカのものである証。
これはずっと身に着けてる。もちろん大学でも。
左手の薬指に銀色のシンプルな指輪を、まだ大学生の俺が着けてたら、そりゃ、色々と突っ込まれる。
ほんと、ミカの予想通り。
これについてもミカは『嘘は良くないけど全部話す必要は無い』と教えてくれた。
悪いことしてるわけじゃないから隠す必要は無いけど、ミカの社会的立場や、俺が将来ミカの秘書になるってことを考えたら、やっぱり全ては明かせない。
『大事な人がいる』、それだけ言って俺はあとは何も言わない。
それでも、あれこれ詮索する人はいたし、色んな人から同じことを何回も聞かれた。
まぁ、最近はそれも減ったけど。
いいんだ、誰にも認めてもらえなくても、世界中が反対しても。
俺はミカが大好きで、ミカがいればそれでいい。
大学で学ぶのも、指輪のことをうまく躱すのも、みんなミカのためだ。
…ほんと、俺ってどんだけミカに惚れてるんだって感じだな。
ま、いいや。
とにかく今は、とっととレポート提出してミカと合流したい。
土曜日は講義を取らないように組んだけど、どうしても書き上げられなかったレポートを昨夜ようやく仕上げた。
締め切りは今日だから、提出するためだけに、今、大学に来てる。
せっかくのミカとの休日なのにもったいない。
けど、仕方ない。
だから、家を出る前にミカが、後で迎えに行くから外でランチしようって言ってくれた時は嬉しかった。
だって、なんかデートみたいじゃん。
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