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恋人たちの祭り 1
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あのスキーバスの事故から数週間たった1月のある日、アルは大学のカフェテリアで友人達に驚かれていた。
「何も贈ったことないの? 今まで一度も?」
世間は来月のバレンタインデーに向けて華やぎだしており、花屋は予約受付中と赤やピンクの貼り紙を出している。
アクセサリーや化粧品はもちろん、菓子、靴、バッグ、様々な店がバレンタインデー向けのセールを始めていた。
「うん。…え、変?」
「変ていうか…」
「よくカノジョに愛想つかされないわね」
女性陣の評価はなかなか厳しい。
彼女達によれば、最低でも薔薇の花束くらいは贈るべきなのだとか。
リュリュとリュカは今は恋人がいないが、いた頃は何を贈ろうかとクリスマスが終わった途端に悩んだと言った。
「貰ったことはあるんだけど…」
「貰ったぁ!?」
5人が声をそろえて驚いた。
アルは記憶喪失だ。
ミカに拾われて大学に入るまでは世間との接触はほとんど無かった。
大学に入ってからも一昨年、昨年と、それまで同様にミカから贈り物をされていた。
愛の日だとミカから教わっていて、恋人がいる人は男女問わず贈り合うと聞いていた。
確かにテレビや雑誌で見る情報では男性から贈るのが多いように思えたが、女性から贈るのも変ではないらしい。
そもそも恋人がいない人には全く無関係な話のようだった。
「え…ダメなの?」
今でもアルは指輪の相手のことを明かしていない。
だから彼等はアルが恋人である女性にバレンタインデーに何も贈らないどころか、逆に貰ってると思っているのだ。
「ダメだな」
「ダメだね」
友人達はバッサリと言い切った。
「だって俺、お金無いし、バイトだって去年の夏が初めてだったし…」
「相手だって同じじゃないの?」
「いやー」
慌ててアルは口をつぐんだ。
「え? 年上? 社会人? 何、何?」
今の今まで‘大切な人’以外何も言わなかったアルを、友人達は興味津々で追及した。
「ちょと、教えなさいよ、アル~!」
「そうだぞ~、ちょっとくらいいいじゃんかよ~」
アルは両手で口を塞いで、首を横に振り続けた。
結局、今年こそは何か贈れと5人から言われて、家路につくことになった。
スキーツアーに支払ったお金は全額返金され、夏のバイト代は丸々手元に残っている。
ツアー会社からのお見舞金もあるし、ミカに何かプレゼントするのは可能だ。
だがー
(何を贈ればいいんだろう…)
アルは大学の帰り道、ショッピングモールをぶらつきながら、ため息を漏らした。
定番の赤い薔薇の花束は、友人達によれば最低限、らしい。
では食事に誘うか?
多くのレストランがバレンタインデー用のコースを用意して予約を受け付けている。
しかし、舌の肥えたミカを満足させられる店をアルは知らない。
連れて行ってもらったことのある店から選ぶこともできるが意外性に欠ける。
何しろ初めての贈り物なのだから。
そこでアルは、はたと気付いた。
バレンタインデーに限らず、誕生日もクリスマスも、イースターも、とにかく全部貰うばかりだった。
確かに、その日は特別だといって、アルがケーキを焼いたり、手の込んだ夕食を作ったりはしたが、何かを買って贈ったことは無い。
そもそも、今までお金が無かったのだから当然だ。
初めてバイトして、初めて自分のお金でバレンタインデーに贈るギフト。
(どうしよう…)
アルはますます迷ってしまった。
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