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緑茶の国で 4
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最終日はせっかく京都に来たのだからと有名な神社仏閣を案内してもらい、出張の日程はすべて終了した。
その日の内にリシャールは家族のもとへと新幹線に乗り込み、ミカとアルは彼を見送ると散策しながらホテルへ戻った。
日本滞在はあと10日。
翌朝、2人はビジネスホテルをチェックアウトして、フランスを出る前にガイドブックなどで目星をつけた場所へ観光に行き、京料理に舌鼓を打った後、予約していた旅館へ宿を移した。
次の日はレンタル店で浴衣を着付けてもらい、人力車で市内をめぐる計画を立てていた。
お土産も買う予定だ。
レンタル店で浴衣を選び着付けてもらう。
英語ならたいがい通じるのはリシャールという通訳のいなくなった2人にはありがたい状況だった。
アルは着付けの終わったミカを見て息をのんだ。
「どう? 似合う?」
畳の上でくるりと回って見せたミカがそう訊ねたのに、アルは見つめるばかり。
「え? 変?」
「あ、違う、うん、似合ってる」
慌てて答えたアルは奥へと連れていかれ着付けされた。
待っている間、ミカは借りる下駄や信玄袋を選び支払いを済ませた。
「お待たせしました」
着つけてくれた店員に連れられてアルが出てきた。
そして、ミカもアルと同じ反応をした。
「…こういうことか…」
「? 何?」
「何でもない。似合ってるよ、アル」
2人は店員に見送られてお土産探しに出かけた。
彼らの左手にはリシャールがいる間は首から下げ、シャツの下に仕舞われていた指輪が光っている。
彼を見送ってホテルへ戻ると互いの指に着け合った。
ここは遠くフランスを離れた地で、知り合いはいない。
旅先で、二度と会うことはない人ばかりだろう。
仕事から解放された2人は、いつも通り指輪をつけ、恋人同士に戻った。
だから人目もはばからず手を繋いで歩いた。
アルは照れたが、ミカ同様に嬉しかった。
どこで知り合いに会うかわからない場所では仮に指輪を着けていられたとしても手を繋ぐことはできない。
でも、ここならできる。
手を繋いで外を歩ける。
堂々とデートできる。
別に悪いこと、恥ずかしいことをしているという後ろめたさは無い。
しかし、それでもミカの立場というものもあって、自分たちの住む街ではそれはできない。
でも、旅先でならできる。
アルは嬉しくて、ほんのり顔を赤らめながらも指をきゅっと絡めた。
「アル、なんで下ばっかり向いてるの? せっかくの京都なんだから街並みも見なきゃもったいないよ?」
「あ、うん」
アルは顔を上げたが、それでもミカの方は見ない。
店先を見ているようで、そうでもない様子。
ミカが笑った。
「こっち向いて、アル」
「…無理」
「なんで?」
覗き込むミカをアルが押しとどめた。
「だ、だめ」
「どうしたの?」
ミカがずっと笑ってる。
アルが頬を赤くしている理由が分かっているからだ。
「浴衣ってさ、涼しいよね」
「う、うん」
「アルも似合ってるね」
「ありがと」
顔を背けてぶっきらぼうに返事をするアル。
「ほんと、蒸し暑いけど浴衣なら風通しいいもんね」
と言いながらミカが襟を少し開けると
「なっ!」
ミカの手をアルが慌てて押さえた。
「これ以上はダメ」
「これ以上?」
首を傾げるミカにアルは止まった歩みを再開させて答えた。
「ミカは色気ありすぎ。浴衣って、もう、だだ漏れだよ」
「だから僕を見てくれなかったの?」
アルがこくんと頷いた。
「ふふ、同じだね」
「同じ?」
「アルも浴衣着たら色気2倍増しの可愛さ3倍増し」
「可愛いって歳じゃないんだけど、俺」
「でも可愛い。可愛くて襲いたくなる」
色を帯びたミカの目をアルは手の平で隠した。
ここで当てられるわけにはいかない。
「ミ、ミカ、とにかくお土産が先」
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