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ジルの回想 1
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私がシルヴァン・ウィリアムズと初めて会った時、彼は34歳で、友人らと立ち上げた会社は軌道に乗り多忙を極めていて、寝不足な顔で挨拶をしてくれた。
当時、私は離婚して娘と2人暮らし。
彼女が小学校に上がったのをきっかけにパートタイムからフルタイムの仕事へ移ろうと職を探していたところだった。
あとで知ったことだが、シルヴァン社長が離婚したのと同じ時期に私は離婚していた。
娘シビルと彼の息子ミカくんが同い年だというのは、面接の時の雑談で知った。
互いにシングルで子供を育てる大変さを分かり合えたせいなのか、面接から1週間後、採用通知が届いた。
仕事の内容は多岐にわたり、しかも昼から夜という変わった拘束時間。
しかし私には都合良かった。
娘を学校に送り、出社するまでに少し時間があるので家事を済ませることができる。
その頃のウィリアムズ商事はまだ小さな会社で、シルヴァン社長の自宅の一室をオフィスとして使っていた。
しかも仲の良い友人らと立ち上げたというだけあって、彼等は仕事そのものが楽しいらしく、ゲストルームにはいつも誰かしらが泊まっていた。
だから私が出社して最初にするのは彼らの昼食の用意とゲストルームの片付け。
それが終わるとアシスタント業務、つまり雑用だ。
掃除、データ打ち込み、ファイリング、手紙の仕訳といった細々したことから、資料集め、役所回り、何でもやった。
小さな会社だから全体が見通せる。
自分も微力ながら参加しているという感覚は私に充実感を与えてくれた。
ミカくんの学校へ迎えに行くついでに娘もピックアップできるのは小さな会社ゆえに許されたことだ。
ラッキーだし有難い。
彼等と一緒に買い物をして帰り、ダイニングで宿題をさせながら夕食を作るのが常だった。
シルヴァン社長はシビルと私がミカくんと夕食を摂ることを許可、というより勧めてくれた。
彼の私への気遣いであると同時に、それはミカくんへの配慮だった。
父一人子一人で数年暮らしてきて、2人きりの食卓に慣れてしまうミカくんが憐れに思えたと、いつだったか話していたことがある。
シルヴァン社長は私達と夕食を共にすることもあれば、そうでない時もある。
泊りがけで仕事をする社員たちと共に大きなテーブルで食事を囲むことも珍しくない。
それでもミカくんは私と娘と3人で食事する時より表情が明るかった。
もちろん、シルヴァン社長がいないと仏頂面というわけではない。
しかし、やはり父親である彼がいる時は嬉しそうだ。
それは当然だろう。頼りにできる唯一の肉親なのだから。
私が娘と帰宅する時、ミカくんはいつも寂しそうに「またね」と手を振ってくれた。
シルヴァン社長の仕事が終わっていればミカくんが眠るまで本を読んであげたり、他愛もない会話でコミュニケーションを図ることも出来る。
しかし、そんな日は多くないらしい。
オフィスにいるパパに「お休みなさい」と言ってキスしてもらって、ひとりでベッドに入る日の方が多いと聞いた時は胸が痛んだ。
私達が帰った後、ひとりでテレビを見たり本を読んで過ごすというミカくんに何かできることは無いかと考えたが、すぐには良いアイディアは浮かばなかった。
どれくらい経ってからだったろう。
ミカくんと一緒にピックアップした娘の体調が悪く、彼女をゲストルームに寝かせ、社長に「夕食を用意したら早退したい」と言った日があった。
彼は心配してくれて、夕食は簡単なものでいいよと言ってくれた。
シビルは食べられないだろう。
しかし、ミカくんにひとりで食事をさせるのは可哀想だ。
だが私も彼に付き合う時間が惜しい。
そこでミカくんに聞いたのだ。
「サンドイッチでもいい?」
ほんの思い付きだった。
私が使っているデスクならパソコンは乗っていない。
そこで彼に食事をしてもらおう。
パパである社長は仕事中だが顔は見える。
オフィスで食べても周りが汚れないものが良いだろうと思ってサンドイッチを選んだ。
夕食向きのメニューではないがミカくんはOKしてくれた。
そして、オフィスに彼を入れることもシルヴァン社長はOKしてくれた。
急いでサンドイッチを作り、ミカくんとオフィスへ行くと、残っていた社員たちが「おいしそうだな!」と笑って彼を迎えてくれた。
ミカくんをオフィスに残し、私は慌ててキッチンに戻ると社長達の夕食を作り、娘を抱きかかえてオフィスに帰宅することを告げに行った。
ミカくんは真剣に仕事に取り組むパパの顔を食い入るように見つめていた。
私が挨拶すると社長達は挨拶を返してくれ、そしてミカくんは笑って手を振ってくれた。
いつもの寂しそうな顔ではなかった。
それをきっかけにしてだろう、ミカくんは私と娘が帰った後しばしばオフィスで過ごすようになったらしい。
邪魔はしないように静かに本を読んだり、勉強をしていると聞いた。
ミカくんの目には父であるシルヴァン社長、そして、その友人である社員達の様子は、どう映ったのだろう?
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