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ジルの回想 2
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ミカくん、いや、もう君付けでなんて呼べない年齢になり、彼が職を得て働きだす頃にはウィリアムズ商事は新事業を始めていた。
私は彼の成長をそばで見守りながら、まさかこんなに長く同じ会社に勤めるとは思っていなくて、我ながら驚いていた。
そして、私の仕事内容は家事やアシスタント業務から秘書へとシフトし、シルヴァン社長を支えていた。
一時期は社長が私と結婚するのではないかと周囲に思われていたこともあった。
確かにシングル同士、有り得ない話ではないだろう。
しかし彼にも私にも、その気は無かった。
良き友ではあるとは思うが、それ以上にはならないのだ。
多分、相性という奴だろう。
周囲のそんな妙な期待も消えるほど長い年月が経ったある日、シルヴァン社長は事故で亡くなった。
あの日のミカ社長の顔は忘れられない。
肉親の突然の死。
私は葬儀の手配や様々な手続きなどの雑事、食事を忘れるほどの彼の身の回りの世話、そういったことしかできなかった。
彼は父親から会社を引き継いだ。
急なことで戸惑うことも多かったろう。
初めてのことで覚えなければならないことが多すぎた。
それでも彼は悲しみを忘れるためだったのだろう、それから逃げるかのように仕事にのめり込んでいった。
創業時からのスタッフたちは皆、シルヴァン社長を慕っていたので、その息子であるミカ社長にも好意的だった。
ミカ社長はそれに応えようと必死だった。
夜遅くまで仕事をしていることも珍しくなかった。
彼の表情は徐々に柔らかくなっていったが、それでも彼の笑顔はいつも、どこか作り物のようだった。
安心して見ていられない笑顔、心穏やかにならない笑顔。
確かに柔和で上品な笑顔ではあったが、あくまで営業用という印象は拭えなかった。
そんな彼の笑顔が安堵できるものに変わったのはいつだったろう?
最初は年月がそうさせたのだと思っていた。
しかし、そうではないと分かったのは彼がやたら弁護士と会うようになってしばらくしてからのことだった。
ある日、ミカ社長は唐突に告げた。
「ジル、息子ができたよ」
私は驚いて言葉が出ず、何度か瞬きしてから結婚かと喜んだ。
知らない間に女性と付き合って、いつの間にデートしていたんだろうと自分の息子のことのように嬉しく思いながら聞くと、そうではないらしい。
養子を取ったというのだ。
しかも16歳。しかも、どこの誰とも分からない、その年齢すら曖昧な少年を。
私はお金目当てで近付いたのでは、と危惧した。
「違うよ。彼はそんなんじゃない」
そう言って笑うミカ社長は幸せそうに見えた。
幸せそうだからこそ、却って怪しいと私は直感した。
騙されているのではないか。
父親を亡くし社長を継ぎ、心が疲れている隙を狙われたのではないか。
利用されてるなら何とかしないと。
私は会ったこともない少年に勝手に怒りを燃やした。
それから何か月かして、ミカ社長はその息子とやらに会わせてくれた。
私は追い出す気満々だった。
初めまして、と差し出された右手に仕方なく握手した私へ、アルと名乗った少年は人懐っこい笑顔を向けた。
そんな笑顔に騙されないぞと睨むような視線を、私はぶつけていたに違いない。
驚いた顔をして、彼は困ったように視線をそらした。
そこへ紅茶をトレイに乗せてリビングに戻ってきたミカ社長はプッと笑い出した。
「ジル、なんて顔してるの。怖いよ」
さも可笑しそうに笑いながらカップを置いて、彼は少年の隣に腰を下ろした。
「改めて紹介するね。ジル、彼がアル・ウィリアムズ、僕の息子だよ。アル、こちらがジルベルト・デリダ。僕の秘書で、小さい頃からたくさんお世話になった人」
ミカ社長のアルを見る表情で私は理解した。
彼の笑顔を取り戻したのは、この少年だったのだ。
アルが照れたように笑いながらミカ社長を見つめ、それに慈しむような視線を返すミカ社長。
何もかもを一遍に受け入れることはできないし、まだ100%は信用できない。
しかし、それでも、アルがミカ社長を笑顔にし続けてくれることを私は願った。
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