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とある春の一日 5
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「うん」
先程までの怒気を含んだ鋭い眼差しはどこへやら、ミカはこれ以上ないくらいにニコニコと笑っている。
「うん?」
毒気を抜かれたように、アルがぽかんとしてミカの台詞を復唱した。
「うん、そうだよ。言わせたい。言って欲しい。アルの口から聞きたい」
「は?」
アルの涙はすっかり引っ込んでしまい、今は疑問符が顔に貼り付いている。
ミカはアルを抱き寄せ、額にキスをした。
「やっと言ってくれた、嬉しいよ」
満足そうなミカを不思議そうに見上げるアル。
ミカは唐突にアルに質問した。
「昨日は何月何日?」
「え? …3月31日」
「今日は?」
「4月1日」
「4月1日と言えば?」
子供番組の司会のお兄さんのような口調と声でミカがニコニコと尋ねる。
アルはぽかんとして、それから何かに気付いたように声を上げた。
「エイプリルフール!」
「あた~り~」
「なっ…! まさか、俺を担いだ…!?」
おかしそうにミカは笑ってアルの頭を撫でた。
「成功だね」
「え、ちょっ、どれが嘘? どこまで? どこから?」
「朝からだよ」
あたふたしてるアルがおかしくて、答えながら笑いが止まらないミカ。
「出張なんて嘘。行かないよ」
「へ…?」
すっかり脱力して、アルはしばし呆然として、それからほっとしたように息を吐くと、ことんとミカの胸に額をつけた。
「良かった…。ミカ行かないんだ」
「うん」
アルはミカをぎゅっと抱きしめた。
「良かった…」
心底安心したように呟いて、アルはミカの胸に頬を寄せた。
「嬉しいな、その反応。その顔見れただけでも嘘ついた甲斐があったな」
ミカはアルの髪を撫でた。
「出張は嘘だけど、それ以外は本当だよ」
「?」
「本当はね、出張に行くって言ったら、きっとアルは寂しいとか行かないでとか言ってくれると思ってたんだ。で、そう言ったら帰ってきてすぐ、嘘だよってばらすつもりだったんだけど、アルは寂しいって一言も言わなかったでしょ」
「だって」
「まぁね、我慢してたんだろうけど、僕としてはショックだったわけ。アルは寂しくないのか、寂しいのは僕だけか、って不安にもなった。だから何とか寂しいって言わせようとしてるのに、アルはちっとも言ってくれない。段々、もしかして僕に飽きた?とか思い始めちゃって…。ふふ、恥ずかしいね、いい歳して大人気ないことした」
ミカはアルに軽くキスをした。
「だからアルが泣いてまで寂しいって言ってくれて嬉しかったよ」
アルの頬が赤く染まり、彼はもぞもぞと顔をうずめた。
「すんごく恥ずかしいんですけど」
「なんで」
「だって俺、怒っちゃった。弱いとこ見せた。恥ずい」
「かわいいよ」
アルの髪に頬擦りするミカに
「かわいくないし」
アルは照れ隠しにぶすっとして、そう返した。
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