アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
あなたを愛します 11
-
数日後、いつも通り、反応の無いミカにアルが話しかけている時だった。
かすかにミカの左手がアルの手を握り返した。
力は弱いが、アルがミカを呼ぶと、もう一度握り返してきた。
「ミカ! ミカ、聞こえてるの? ね、返事して。目を開けて、ミカ」
ミカの右手が何かを探すようにシーツの上を動いた。
アルはその手を取り、左手と合わせて両手で包んだ。
「ミカ!」
返事は無かった。
しかし、両手でアルの手を掴んだ。
アルはミカの手に震えながらキスをした。
翌日、ミカが目を開けた。
表情は無いがアルは何となく目が合ったような気がした。
すぐに目を閉じてしまうが、しばらくするとまた目を開ける。
焦点は合っていないようだが名前を呼ぶとアルの方へ目を動かした。
アルは、いつもより明るい声で話しかけた。
そこからの回復は早かった。
翌日にはミカはアルに頷きで返事をした。
その次の日は笑顔を見せてくれた。
そして、アルは久しぶりにミカの声を聞いた。
「…アル…」
掠れた小さな声だったがミカははっきりと名を呼んだ。
「ミカ! ミカ!」
興奮気味にミカの手を強く握るアルにミカは弱々しく微笑んで、「アル」と呼んだ。
ぽろぽろと涙をこぼしながら笑うアルの頬をミカの指が拭った。
「…何、泣いて…るの…?」
「当たり前じゃないか! 車にはねられて、ずっと目を覚まさなくて、俺、死んじゃうんじゃないかって心配で、毎日、毎日…!」
ミカが不思議そうな顔をして見上げている。
「車…? 誰が?」
「…え? 覚えてないの? 俺の誕生日のお祝いにってミカが食事に連れて行ってくれて、帰りに交差点で車が突っ込んできて…」
「アルが?」
「違うよ! ミカがはねられたんだよ」
ミカはしばらく思案顔をした後
「ごめん、覚えてない」
と困った顔をした。
そういえば事故に遭った瞬間のことは覚えていないと、交通事故体験者の多くが語ると聞いたことがある。
アルはそれを思い出して、ミカもそうなのだろうと考えた。
「ミカ、俺のことは分かる…?」
「分かるよ。アル・ウィリアムズ、僕の恋人」
「記憶、大丈夫? 今日が何日とか、…あぁ、分かんないよね、えぇと」
「大丈夫だよ、多分。アルの誕生日を祝ったのも、交差点で信号待ちしてたのも覚えてる」
「会社のことは?」
「大丈夫だよ」
ミカは笑った。
アルはほっとして、涙しながら笑った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
158 / 213