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sourire
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復活節の週末ー
アルは暖かな日差しを浴びながらひとりで歩いていた。
そこは開けた場所で静かだった。
芝生を踏む音が小鳥のさえずりと重なり耳に心地良い。
目当ての場所に着くとアルは、手にしていた百合の花束をそこへ置いた。
石の板にはミカの名が刻まれている。
(ミカ、あなたがこの世を去って半年が過ぎたけど、俺は未だに信じられないよ。あなたがいないなんて…)
そして、アルは隣の墓標にも百合の花束を置いた。
(ミカのお父さん、会ったことは無いけれど、ミカを生んでくれてありがとう。あなたのお陰でミカに会えました。あなたの血統を残すことはできないけど、謝りません。謝らないことをごめんなさい。だって、ミカと生きられて幸せだったから。今も幸せです。ミカがいないのはすごく寂しいけど、幸せな時間をいっぱい貰ったから、だから俺は幸せです。ミカを生んでくれてありがとう)
アルは静かに涙を流しながらミカとミカの父の墓を見つめた。
それから空を仰ぎ、どこに墓があるのかも分からない、名も知らぬ人達にアルは思いを馳せた。
(ミカの先祖の皆さん、海を渡ってフランスに来てくれてありがとう。あなた方のお陰でミカに会えた。でも、途絶えさせてしまう。俺は罪を犯していますか?)
帰宅し、玄関を入り、鍵を閉めると、その音が大きく響く。
窓を開けると暖かな風が入ってきた。
(ミカ、あなたが帰って来るんじゃないかって、未だに思う時がある。朝起きて、あなたがいない。でも、キッチンにいそうな気がして、いつも馬鹿みたいに期待してしまうよ。もう、いないのにね。会社から帰ったらミカがいるんじゃないか、今でもそんなことを思う。ミカ、寂しいよ)
アルは窓を閉めた。
アル
慌てて振り向く。
聞き間違えようが無い。
確かにミカの声がした。
しかし、当然そこにミカはいなくて…。
「ミカ、ミカ」
アルはミカを探して次々とドアを開けた。
そこかしこにミカとの思い出があふれる。
キッチンでフライパンを振るうミカ。
ダイニングでカフェオレを入れるミカ。
リビングで紅茶を飲むミカ。
寝室で腕を広げて微笑むミカ。
「ミカ…!」
ミカはもういない。
アルは写真立てを抱きしめた。
そこにはミカとアルの最後の一枚が飾られている。
「ミカ」
アルは写真のミカにキスをした。
「愛してる。幸せだった。ありがとう」
そしてもう一度、写真立てを抱きしめた。
「ミカ、Adieu は言わない。だから、Au revoir」
~Fin~
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