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arbre généalogique ~pére~ 1
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「これ、いつのアルバム?」
春の大掃除シーズン、納戸の整理をしようかということになり、アルとミカは奥で埃をかぶっている箱を次々と開けていた。
アルが取り出したのは随分と色褪せたアルバムで中の写真はどれも白黒だ。
「いつのだろうね? 僕も分からないよ」
ミカはページをめくりながら、その服装から何代も前の人達であろうと予想した。
「そういえばミカの先祖ってイギリスから来たんだよね? ひいおじいさんくらい前?」
「いや、もう少し前だと思う。実は僕も知らないんだ」
ミカはアルバムを閉じながら肩をすくめた。
箱からはアルバムの他にも、今となっては何に使うのか分からない陶器や金属の壺のようなもの、様々な本が出てきた。
それをルーフバルコニーで広げて埃を払って、アンティークショップに持っていけそうな物と捨てる物、残す物を選別していく。
「これ何?」
今度は一抱えもある何かのケースをアルは引っ張り出してきた。
「あぁ、それ、多分フィドルだよ」
アルがケースを開けてみると中には楽器が入っていた。
「バイオリン?」
「うん」
「でも、さっきフィドルって言わなかった?」
「フィドルもバイオリンも、物としては同じだよ。でも、演奏方法が違うっていうか…。上品にお行儀良くクラッシックを弾くのがバイオリン。酒飲みながら民族音楽やるのがフィドル。きっちりレッスン受けて真面目に弾くのがバイオリン。親から子へ受け継がれてく大衆の楽器がフィドル」
「へ~」
「楽譜にするとね、フィドルは飾り音符がたくさん付く感じかな」
「ミカも弾けるの?」
「小さい頃父に教わったけど、何十年も弾いてないからなぁ…」
そう言いながらミカはフィドルを取り出して弦をはじいてみた。
「ずっと手入れしてないから、まともな音、出ないかもよ?」
糸巻きを回して緩んだ弦を直し、ミカが構えた。
アルはかっこいいな、と見惚れてしまった。
「まずはバイオリン」
ミカがキラキラ星を弾いてみた。
音はひどいし、音程ははずれ気味だがだいたいのメロディは分かった。
「で、同じ曲でもフィドルとして弾くとこうなる」
メロディは同じだ。
なのに印象が全く異なる。
バイオリンのキラキラ星が夜空高くで冷たくきらめく星なら、フィドルのそれはもっと近くで楽しそうに輝く星々。
「すご~い」
アルは単純に感嘆のため息をついた。
「ん~、やっぱり指が動かないなぁ」
「いや、すごいよ」
「アルも弾いてみる?」
「無理無理」
そう言って躊躇するアルにフィドルを持たせ、弓を持たせる。
「肩に乗せて顎で押さえて、指はここ。弓はまっすぐ引くように肩と肘を使って」
ギ、ギィィ
「うはっ!」
それはそれは酷い音が出た。
「最初はそんなもんだよ」
ミカはアルの後ろに立ち、背から手を回した。
「じゃ、左手は僕がやるからアルの右手を貸して」
弓を持つアルの右手の上からミカが手を握った。
「右肩と肘、力抜いて」
そして、キラキラ星を弾く。
音も音程も酷いが2人の共同作業。
アルはミカの知らない部分、そしてミカのルーツに触れられて嬉しく思った。
納戸の掃除が終わり、埃にまみれた体をシャワーで洗い流し、2人は夕食を作り始めた。
「アルバムとか見てたらウェールズに行ってみたくなったなぁ」
「じゃ、夏に行こうか?」
「え、いいの?」
「今年のバカンスはウェールズだね」
夕食を摂りながら色々と話した。
ミカはフランス生まれフランス育ちだから実はウエールズに一度しか行ったことがないこと、だからウェールズ語は読めないし話せないこと、等々。
フィドルに興味があるとアルが言えば、アイリッシュパブに行ってみる?とミカが答え、アイリッシュなのにウェールズ?とアルが聞けば、微妙に違うけどフィドルはフィドルだと、ミカも実は良く分かっていないことを明かして笑った。
アルはパブと旅行が今から楽しみで、子供のようにわくわくした。
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