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arbre généalogique ~mére~ 7
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午後には訪問看護師がやってきた。
病気と、寝ていることが多いせいでヘリュの足はむくんでいる。
パルヴィと名乗った看護師がオイルマッサージをするというので、ミカとアルはリビングから出ようとした。
しかし、ヘリュが「いていいのよ」と言うと、パルヴィは「ヘリュさえ良ければ一緒にやりませんか?」と言ってくれた。
ヘリュは喜んでミカに「お願いするわ」と微笑んだ。
ミカはパルヴィに教わりながら、ゆっくりとヘリュの足をマッサージした。
初めて触れる母の足。
彼女は気持ち良さそうにニコニコしている。
ヘリュが喜んでくれるのは案外嬉しい。
ミカは自分の感情に戸惑いながら手を動かしていた。
アルはミカの表情が柔らかくなっていくのをそっと見守っていたが、ヘリュに呼ばれて我に返った。
見るとパルヴィが、もう片方の足を示している。
「あなたもどうですか?」
パルヴィがニコニコしながらそう言うので、アルは頷きそうになって慌てて聞いた。
「いいんですか?」
「もちろん」
そう答える彼女に続いてヘリュも「アルにもお願いするわ」とニコニコと彼に頷いた。
アルはぎくしゃくと袖をまくって、恐る恐るヘリュの足に触れた。
「ふふ、孫にこんなことしてもらえるなんて役得ね」
パルヴィは気をきかせてなのか、「トイレ借りるわね」とリビングを出て行った。
「ヘリュ」
ミカは手を止めず、足から目も離さず話しかけた。
「アルは確かに孫にあたるのでしょうけど、孫ではないんです」
アルが手を止め、ミカを見、彼が話すであろう内容を察知するとマッサージを続けた。
「戸籍上は確かに僕の息子ですから、あなたの孫にあたります。でも、アルは僕の生涯のパートナーなんです」
ミカは手を止め、顔を上げた。
「驚かせてすみません」
ヘリュはまじまじとミカを見つめた。
「この国にはパートナーシップ制度がありますよね? フランスにも似たようなものがあります。でも、色々考えて、僕はアルを養子にすることにしました。だから息子ではなく、配偶者なんです」
ヘリュはアルへ目を転じた。
彼は黙々とマッサージを続けていた。
「あなたが同性婚にどんな考えをお持ちか確かめもせず、カミングアウトして驚かせてしまったことはお詫びします」
「…だから、奥さんはいないのね…?」
「はい。僕はあなたを悲しませてますか?」
答えないヘリュから手元へと意識を戻し、ミカはマッサージを再開した。
「…そうね、驚いたわ」
しばらくしてヘリュが口を開いた。
「テレビでは見たことあっても、実際この目で見るのは初めてなんですもの」
フィンランドはパートナーシップ制度ができる以前から同性カップルには割と理解のある国だった。
しかし、都市部では受け入れられつつあるセクシャルマイノリティも、こんな田舎町では目立つ存在になってしまう。
だから彼等は都市部へ流入する。
だからヘリュも見たことがなかった。
「そうですか…。どうですか? 実際に見てみて。やはり気持ち悪い? 自分の息子が同性と結婚したなんてショックですか?」
ミカは悲しい目をしてヘリュに問うた。
「驚いたわ。…ビックリしたという意味ではショックだったわね。…でもー、リクやシニッカが結婚したい相手を連れてきた時と同じくらいの衝撃でしかないわね」
ヘリュが悪戯っぽく笑った。
ミカはほっとし、アルもようやく詰めてた息を吐き出した。
「そう…アルは孫じゃなくて、お嫁さんなのね」
アルは絶句して固まった。
ミカは思わず吹き出すと声を立てて笑った。
ヘリュもおかしそうに笑った。
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