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arbre généalogique ~mére~ 11
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翌日、アルはヘリュに、ミカを生んでくれてありがとうと言った。
そして遠慮がちにたずねた。
「お義母さんと呼んでいいですか?」
ヘリュは涙をにじませながら、「もちろん!」と答えた。
それを見てミカは意を決して口を開いた。
「僕も、母さんと呼んでいいですか?」
きっと自分は今、ぎこちない笑顔をしているだろう。
学校行事でボランティア活動のために行った老人ホームの高齢者ではない。
慰問先で、余所行きの笑顔で愛想良く手を繋いだ他人ではない。
今、目の前にいるのは母親で、数日前に初めて会った人で、でも今は血の繋がった肉親だと思える。
ようやく母として見ることができるようにはなったが、まだ戸惑いがあるのは仕方ないことだろう。
ミカはためらいがちにヘリュの手を取った。
「えぇ。えぇ、もちろんよ」
ヘリュが涙を流しながらミカを抱きしめた。
「あなたは私の息子だもの」
アルも安堵の笑顔になり、2人をそっと見守っていた。
「来てくれてありがとう、ミカ、アル」
「こちらこそ、僕を見つけて手紙をいただけて嬉しかった。ありがとうございます」
「お世話になりました」
また来月に来るとは約束したが、その時までヘリュが生きているとは限らない。
これで二度と会えなくなるかもしれない。
「ミカ、愛してるわ。元気で」
「はい、お母さんも…。…愛してます」
やっと言えた―ミカは胸のつかえが取れるのを感じた。
母と呼ばれ、愛してると息子から初めて言われ、止まりかけていた涙がまた溢れてきた。
ヘリュは頬を拭い、声を詰まらせながら「ありがとう」と笑顔をミカに返した。
「アルも元気でね。ミカをよろしく」
「はい。…えっと、お義母さん」
照れくさそうに、でも、嬉しそうに、アルはヘリュをそう呼んだ。
名残惜しいが飛行機の時間がある。
「次に来たら2人ともママンて呼んで」
涙しながら手を振るヘリュに、
「約束します」
2人は答えて部屋を出た。
彼等の背中を見送ったヘリュは、キュヨスティの腕の中に泣き崩れた。
リクとシニッカに空港まで送ってもらい、フランスへ帰り、翌月、ミカとアルは再びヘリュの元を訪れた。
起きていられる時間はさらに少なくなったが、彼女は2人の来訪を喜んでくれた。
もちろん、約束通り2人はヘリュをママンと呼んだ。
当初はミカもアルも恥ずかしいやら照れるやらだったが、ヘリュの嬉しそうな顔を見たくて、それは我慢した。
ひと月に一度の訪問を数回繰り返し、ヘリュは愛する家族に見守られながら眠るように息を引き取った。
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