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3恋愛恐怖症の治し方
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家を出て歩きながら、誰に連絡しようかを考えた。
この後家に帰って、ちょうどその時アンアンギシギシやってたら居心地が悪いので、今日は誰でもいいから適当に誰かの家に泊まろうと思ったのだ。
ホテルは金がかかるし、まだ学生の子や実家暮らしの子は泊まる許可が下りなそうだし、と考えると、一人暮らしの子だと都合がいい。
こちらから連絡して勘違いするような子でも困るし、だからと言ってガードが固い子も困る。
となると、狙うべきはビッチか。
手軽に寝られてオッケーが下りそうな子を、連絡先を適当にスクロールしながら考えたが、ふとピタリと動きが止まった。
――俺、何してるんだろう。
時々、何の前触れもなくふいと我に帰る瞬間が俺にはあるが、今がそうだった。
シてる時は頭が空っぽでも楽しめるからいいし、恋愛ごっこもこちらはそれほど疲れないからいいのだが、だからと言って多分、心から楽しんでいる瞬間はないように思える。
寂しい時、暇な時、どこかへ行きたい時、連絡する相手や、デートをできる相手や、ヤれる相手は腐るほどいるというのに、時々何もかもが嫌になる時がある。
それは、どこからかきた虚しさが、どんどんと心の隙間を埋め、やがて全てを押し潰していくような。
そして唐突に、俺には何もないと悟ることがある。
こうなったら何をしても無駄だ。誰かと寝て紛らわそうとしても、余計虚しくなるだけ。
こんな俺を客観的に見たらきっと、『虚しいだけなら女遊びは止めてしまえ』とそんな結論に達するだろう。
だが、それですんなり止められたら誰も苦労しない。
悪い例えだが、きっとオンナはクスリと同じで、一度手を出したら駄目だとわかっていてもずるずると続けていってしまうものなんだろう。
厄介なことに、寝ている時は楽しいのだ。それで、なかなか止められずに今に至る。
「……でも、家に帰る訳にもいかないしなぁ。金もほとんど持ってないし」
近くにあった公園のベンチに座りながらぼうっと連絡先をスクロールして考えた。
そして、ある場所で手が止まった。水野千紘(みずの ちひろ)と書かれたそれは、俺が高校生からずっと仲良くしている親友だった。
こいつならいきなり連絡したとして、怒りつつも泊めてくれそうだ。
それを思いついてすぐ電話をかけると、数コール後にすぐ相手は出た。
「……もしもし?」
千紘の落ち着いた声が聞こえ、意味もなく安心した。
「なあ千紘ぉ、今日暇?」
そう尋ねると、訝るように「暇だけど……どうした?」と千紘は訊き返した。
「いや、ちょっと色々あって家帰りたくないんだけどさ……泊めてくんない?」
自分でも突飛な頼みなのは分かっているので、思わず茶化すような声になる。
「はぁ!? おまっ、いきなり……」
千紘は案の定、焦ったように声を裏返した。
しかし、少し後に舌打ちと共にこう問いかけた。
「泊まる準備とかは? してあんの?」
「……あ、一切用意してないわ!」
重要なそこを忘れていたことに気がつき、声を上げると、向こう側で盛大なため息が聞こえた。
「普段は気ぃ回んのに、変なとこで気が抜けてるっつうか、アホっつうか」
「アホじゃないってば、うるさいなぁ」
そう口を尖らせて反論するが、千紘は舌打ちを重ねるのみ。
「ったく、しゃあねえな。貸してやるよ色々と。片付けるから家の前で待ってろ」
不機嫌そうに、しかし一番言ってほしかったことを言ってくれた千紘。思わず手を合わせて感謝した。
「ほんっとありがと! 玄関先まで行っとく!」
そして、勢いをつけて立ち上がり、また歩き出した。
口調や態度こそ悪いが、とても面倒見のいい友人がいてよかった、と心の底から思う。
いつの間にか、気分は晴れていた。
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