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秘密
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佐伯さんは日頃から結構自炊しているようで、冷蔵庫の中には割と多くの食材が入っていた。
とりあえずご飯は朝の残りがあったし、卵と細ネギ、魚肉ソーセージでチャーハンを炒めた。
佐伯さんの味覚はよく分からないから、味の濃さはいつも通りで整える。
それから、また卵と乾燥ワカメで、簡単にスープを作る。人の家のキッチンだった為30分くらい掛かってしまったが、味に問題は無いはずだ。
それと、後で洗い物の量が増えると面倒だったから、使ったものは先に洗う。
「よし」
どのスプーンを使えばいいんだろうと思いつつも、適当なものを選びチャーハンの皿に乗せた。
皿とかも、適当に使わせてもらっている。まぁそれは、後で元に戻すからいい。
俺はチャーハンとスープで両手が塞がる中、佐伯さんのいる部屋に戻った。
「佐伯さー……」
名前を呼ぼうと思ったが、佐伯さんはまた眠っていた。姿勢正しく、上を向いて寝ている。
余程疲れていたのだろうか。
それなら問題は俺にあるな。ちゃんと休ませてあげないと。
来週は無理に関わらないでそっとしておこう。
俺は音を立てないように、作った料理はテーブルの上に置いた。そして、佐伯さんの眠るベッドまで近付く。
毎日あんなに男を拒んでいる佐伯さんの、無防備な姿だ。
まだ家の中に俺が居るっていうのに、どうして眠っていられるんだろう。それは、俺に気を許しているということでいいんですか?
いつも触れさせてくれないから妙に触りたくなって、俺は佐伯さんの髪に触れる。佐伯さんの髪はサラサラしていて、細い。
「可愛いです……」
白い肌。細い首。長い睫毛。柔らかそうな唇。
これは、自制利かないかも──
「すみません……」
俺は髪の毛を耳に掛け、佐伯さんの頬に手を触れた。誘われるように顔を近付ける。
「………」
柔らかい。
佐伯さんの唇が触れた。
いつか、佐伯さんの同意があってキスができたらいいな、とは思うが、それはまだ先になるだろう。
会社では近くにいるのに、触れられない。
力では佐伯さんを襲うことも出来るけど、それは出来ない。
苦しい。
「ん……」
佐伯さんが少し顔をしかめて動いた。でも、まだ起きない。
「はぁ……」
俺はその場に座り込み、ベッドの布団に顔を乗せた。
こんなことして、佐伯さんにバレたらきっと嫌われるんだろうな。今よりもっと拒絶されるに違いない。
だから、これは俺だけの秘密だ。絶対、佐伯さんには言わない。言ってしまったら、この関係は崩れてしまうから。
だけど、これは佐伯さんが悪い。
家に来てくださいとか、なのに触らないでみたいな態度。生殺しにする方が酷いですよ。
俺はこんなに好きなのに、いつだって佐伯さんは嫌々言うから、余計に愛おしい。佐伯さんに好きだって言ったら、佐伯さんは多分俺を怖いって思うから、本当の気持ちは言えなかった。
「好きです……」
いつになったら、そう本人に伝えられるんだろう。
(帰るか……)
俺はそろそろ立ち上がり、帰ることにした。佐伯さんだって、ずっと家に男がいるのも嫌だろうから。
俺はジャケットとコートを羽織り、カバンを持つ。時間はもう、4時を回ろうとしていた。
「……さようなら」
最後にもう一度だけ佐伯さんの顔を見て、部屋を後にした。
外に出ると、多くの人が街を歩いていた。それで、一気に現実に引き戻されるような感覚になる。さっきまでの出来事が夢だったみたいに。
「苦しい……」
強くカバンを握り締め、そんなことが口をつく。
佐伯さんに会わなければ、こんな思いすることも無かった。辛い思いもしなかった。多分、この街の人のように、気楽に生きられたはずだ。
だけど、今更嫌いになんてなれないから。
佐伯さんは俺の前に現れて、俺の心掻っ攫って、それでもって俺を拒否する。
もうどうしたらいいのかが分からない。本人はこの先、佐伯さんは俺を好きになってくれるのか?
「好き、です……」
油断すると、耐え切れなくなった涙が頰を伝う。それは馬鹿みたいに溢れて、歯止めが利かなくなる。
でも大人が泣くなんてみっともないから、口を抑えて我慢した。
我慢、してるはずなんだけどな。
どうして止まってくれないんだ。
あぁどうしよう。
分からない分からない分からない。
佐伯さんが、分からない。
どうしたら佐伯さんは振り向いてくれますか?
「…っぅ……あぁ………!」
思いが伝わらないことがこんなにも苦しいなんて、初めて知った。
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